2026/06/09

内部通報の調査方法と対応手順|受付から是正・被通報者対応まで徹底解説

内部通報の調査方法と対応手順|受付から是正・被通報者対応まで徹底解説

内部通報を受け付けてから、調査・是正・クローズまでを「どの手順で・どのくらいの期間で」進めるべきか。通報窓口の担当者が手を動かせる実務マニュアルとして、本記事では受付から是正完了まで6ステップで解説します。あわせて、「内部通報 された側(被通報者)」への公正な対応という、他の解説記事では手薄になりがちな論点にも正面から答えます。なお、内部通報の調査方法は法律上特段の方式が定められておらず、具体的な手順は企業の裁量に委ねられています。本記事では、その裁量の中で実務上の標準として定着しているアプローチを体系的に整理します。

本記事で得られる情報は次のとおりです。

  • 6ステップの全体フロー
  • 各ステップの担当ロールと実務のポイント
  • 法律上の制約を踏まえた調査方法の選択肢
  • 被通報者への適正手続きの実務
  • 調査期間の目安と長期化を防ぐコツ

公益通報者保護法の基本は把握済みで、具体的な実務手順を整理したいというコンプライアンス・法務・人事担当者に向けた内容です。内部通報制度の定義や体制整備義務の全体像から確認したい場合は「内部通報制度とは|公益通報者保護法を踏まえた体制整備義務と実務上の運用ポイント」をご覧ください。

目次

内部通報対応における企業の責務

公益通報者保護法が求める対応義務の概要

公益通報者保護法は、2004年の制定後、2020年に大幅改正(2022年6月施行)されました。さらに、令和7年法律第62号(2026年12月1日施行予定)による再改正が控えており、内部通報制度の実効性を確保する義務はより一層厳格になっています。2026年12月施行の改正で企業が取るべき対応の全体像は「公益通報者保護法 改正 企業対応ガイド|2026年12月施行・義務整備の5つの柱」で解説しています。

体制整備義務の対象区分

  • 常時使用労働者が300人を超える事業者:内部通報窓口の設置・運用、公益通報対応従事者(守秘義務対象者)の指定、調査・是正の実施、通報者への不利益取扱いの禁止措置、内部規程の整備と周知が法的義務(常時使用する労働者には、正社員だけでなくパートタイム労働者・有期契約社員も含まれます)
  • 常時使用労働者が300人以下の事業者:上記と同内容が努力義務。法的強制力はないが、業種・取引先からの実質的な対応圧力が生じる場合がある

2026年12月施行の改正で新設された主要論点は次のとおりです。

  • 通報妨害の禁止(法第11条の2):通報をやめさせる圧力・威迫行為などの「通報妨害」を明文で禁止
  • 通報者探索の禁止(法第11条の3):正当な理由のない通報者特定を目的とした行為を禁止
  • 不利益取扱いの推定規定(法第3条第3項):通報後1年以内の解雇・懲戒を通報理由によるものと推定
  • 命令・罰則の新設(法第15条の2第2項):従事者指定義務(法第11条第1項)違反について、勧告に従わない場合の命令権が新設された(命令違反は30万円以下の罰金・両罰あり)。なお、体制整備義務(同条第2項)違反一般には、命令や刑事罰は及ばない

守秘義務(法第12条)違反の罰則は30万円以下の罰金です(拘禁刑は科されません)。是正命令違反も同様に30万円以下の罰金(法人両罰あり)。一方、公益通報を理由とした解雇・懲戒については、個人には6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科される可能性があります(出典: 公益通報者保護法の罰則規定)。なお、具体的な適用要件については顧問弁護士等に確認することが望まれます。

「制度を整えているだけ」では不十分で、「制度を実際に機能させること」が企業に求められる時代になりました。以降のセクションで、受付から是正まで6ステップの実務手順を解説します。

通報を受けた際の企業のリスク

内部通報を受けても適切に対処しなかった場合、企業には複数のリスクが生じます。

対応を怠った場合に生じうるリスク

  1. 行政措置のエスカレーション:助言・指導→勧告→公表という段階で消費者庁の対応が強化される。従事者指定義務違反については、勧告に従わない場合の命令権が法第15条の2第2項で新設された(命令違反には罰則あり)。なお、実際の行政対応は事案に応じて柔軟に行われ、必ずしもこの順序で段階的に進むとは限らない
  2. 民事上のリスク:不正行為の放置による使用者責任、職場環境配慮義務違反、通報者への不利益取扱いに伴う損害賠償請求
  3. 組織への二次損害:不正が放置されることで被害が拡大し、発覚時の損失が大きくなる。関与者が増え、追加調査のコストも膨らむ
  4. レピュテーションリスク:内部通報制度が機能していないという認識が内外に広がると、優秀な人材の定着・採用にも影響する

不利益取扱いの禁止対象(4分類)

公益通報者保護法では、通報者への不利益取扱いを次の4つのカテゴリに整理しています。これらすべてが禁止の対象です。

  1. 労働者等たる地位の得喪に関すること:解雇、退職願の提出の強要、労働契約の終了・更新拒否、本採用・再採用の拒否、休職等
  2. 人事上の取扱いに関すること:降格、不利益な配転・出向・転籍・長期出張等の命令、昇進・昇格における不利益な取扱い、懲戒処分等
  3. 経済待遇上の取扱いに関すること:減給その他給与・一時金・退職金等における不利益な取扱い、損害賠償請求等
  4. 精神上・生活上の取扱いに関すること:事実上の嫌がらせ等

内部通報を受けた直後の初動が遅れると、証拠の散逸・関係者の口裏合わせ・被害の拡大を招きます。受付から是正まで迷いなく動けるフローを事前に整備しておくことが重要です。

内部通報対応フローの全体像(受付〜是正まで6ステップ)

対応フロー全体の俯瞰図とタイムライン

内部通報への対応は、大きく6つのステップで構成されます。各ステップの目的・主な担当ロール・目安期間を整理します。

以下は一般的な目安であり、法律上の期限ではありません。

ステップ目的主な担当ロール目安期間
①受付通報の受理・記録窓口担当者通報当日
②初期評価事実性・重大性・緊急性の判定通報対応責任者・窓口担当者受付後1〜3営業日
③調査計画調査範囲・担当・スケジュール確定通報対応責任者・調査担当者初期評価から1週間以内
④調査実施ヒアリング・証拠収集・事実認定調査担当者(監査役等がモニタリング)2〜4週間(事案による)
⑤是正措置処分・業務改善・規程改訂是正措置担当者・通報対応責任者1〜2週間
⑥フォローアップ是正の実効性確認・通報者へのフィードバック通報対応責任者・窓口担当者継続(是正後1〜3か月)

消費者庁の実務フロー(内部規程例ベース)では、体制は「通報対応責任者」「窓口担当者」「調査担当者」「是正措置担当者」「監査役等」の5つのロールに整理されています。各ロールの役割分担を社内規程で明確にしておくことが、フロー全体を機能させる前提です。

合計所要期間は、単純な案件で受付から是正完了まで1か月程度、関係者が多く証拠収集が複雑な案件では3か月以上かかることもあります。

各ステップで押さえるべき最重要ポイント

ステップごとに、絶対に欠かせない「一点」を整理します。

  • ステップ①受付:秘密保持の徹底。通報者が特定されうる情報を必要最小限の範囲にのみ伝える
  • ステップ②初期評価:独立性の確保。利害関係のある者を評価から外す。幹部関与が疑われる場合は独立報告ルートに切り替える
  • ステップ③調査計画:利益相反チェック。調査担当者の選任時に被通報者との関係を必ず確認する
  • ステップ④調査実施:公正性の維持。調査方法に法律上特定の方式の定めはないが、ヒアリング記録・証拠保全・事実認定の文書化は丁寧に行う
  • ステップ⑤被通報者対応:適正手続きの付与。調査確定前に不利益処遇を確定させない
  • ステップ⑥是正・フォローアップ:書面による通報については、結果や対応方針の通知を行うことが指針で求められている

ステップ1-2|受付・初動対応のポイント

通報受理時の対応(受領通知・秘密保持の徹底)

通報を受け取ったら、まず行うべきは「受領通知の返送」と「秘密保持体制の確立」です。

受領通知(受付確認の連絡)

通報者への受領通知は、通報制度の信頼性を支える重要な行為です。消費者庁の内部規程例では通知の手順が定められていますが、指針上は必須要件ではなく推奨事項として位置づけられています。ただし、通報者に「受け付けられた」という安心感を与えることは、制度への信頼構築に直接つながります。匿名通報の場合も、匿名のまま双方向でやり取りできる仕組み(専用番号のメールアドレス・外部匿名通報システム等)があれば、匿名のまま受領通知を返すことができます。

秘密保持の徹底(法第12条)

通報を受け付けた段階から、守秘義務(公益通報者保護法第12条)が適用されます。窓口担当者・調査担当者・是正措置担当者は「従事者」として指定される必要があり、従事者は通報者が特定されうる情報を正当な理由なく漏らすことが法律で禁じられています(違反は30万円以下の罰金)。

  • 通報者の氏名・所属・立場など特定につながる情報は必要最小限の範囲にとどめる
  • 通報を知る担当者の名簿(従事者リスト)を管理し、範囲外への情報共有を防ぐ
  • 通報内容を関係部署に伝える際は、通報者の特定につながらない形で伝える

匿名通報への対応

匿名通報の場合、一方通行の受付だけでは事実確認が困難になります。匿名通報についても、可能な限り双方向でのやり取りができる体制を整備することが指針で求められています。匿名通報を受け付ける窓口には、番号ベースの専用システムや外部窓口経由での取り次ぎなど、双方向性を確保する手段を整備しておくことが重要です。一方通行の匿名受付のみでは、指針が求める水準を満たしにくくなります。

初期評価とトリアージ(事実性・重大性・緊急性の判定)

通報を受け取ったら、「調査を進めるかどうか」の判断を行います。この判断は通報対応責任者が担います。

調査要否の判断軸

  • 事実性:通報内容に具体性・一貫性があるか。特定の事実を指示しているか
  • 重大性:法令違反・就業規則違反・コンプライアンス上の問題として対処すべき内容か
  • 緊急性:継続中の被害・進行中の不正があるか。直ちに経営層に報告すべき事案か
  • 公益性:公益通報者保護法上の保護要件を満たす通報か

調査を見送る判断がなされる代表的なケース(実務上の典型)

消費者庁の実務フロー(内部規程例ベース)では、以下のような場合に調査を実施しない判断が行われることがあります。

  1. 調査中の対象事案と同種の案件として、現在進行中の調査に含められる場合
  2. 既に調査・是正措置がとられ解決済みの場合
  3. 通報者と連絡が取れず、事実確認ができない場合

これらはあくまで代表例であり、列挙された場合に限られるわけではありません。ただし、合理的な理由なく調査を省略した場合は、行政の勧告・公表等の対象となる可能性があります。いずれの場合も、調査をしない判断をしたときは、その理由を文書で記録しておくことが求められます。

緊急案件のエスカレーション

役員・幹部関与が疑われる通報、法令違反が継続中と思われる通報、人身被害が発生している通報などは、通常の調査ルートではなく、幹部から独立した経路(社外取締役・監査委員会・監査役等)への報告が必要です。この独立報告ルートを規程上確保しておくことは、幹部関与案件等に備えた措置として指針で求められています。

調査チームの編成と独立性の確保

調査を実施する場合、誰が調査に関わるかの判断が調査の信頼性を左右します。

利益相反の排除(指針で求められている事項)

被通報者本人、およびその直接の上司・部下を調査担当から外すことは、調査の公正性確保のため指針で求められています。被通報者が部門長・役員クラスの場合は、当該部門・系列の担当者を全員調査から外す措置が必要です。利益相反が調査の途中で判明した場合も、速やかに通報対応責任者に報告し担当者を変更することが求められます。

従事者の指定(法第11条第1項)

調査に関与する者で、通報者を特定させる事項を伝達される者は「従事者」として書面等で指定する必要があります(法第11条第1項)。ただし、調査のヒアリング対象者として通報の内容を伝えられた者は、主体的に公益通報対応業務を行っているわけではないため、原則として従事者には該当しません。コンプライアンス部門から他部署に調査依頼する際、通報者を特定させる事項を伝達しない場合は当該部署の担当者も従事者に該当しませんが、伝達する場合は従事者として指定が必要です。

外部専門家の活用

利害関係の排除や専門知識の確保のために、弁護士・公認不正検査士(CFE)・調査専門会社などの外部専門家を調査チームに加えることがあります。外部専門家も従事者として指定し、守秘義務が適用されることを明確にしておく必要があります。外部委託先の従事者指定も、本人に分かる方法で行うことが求められます。

監査役等によるモニタリング(指針で求められている事項)

幹部関与案件や重大事案では、調査のモニタリングを監査役等(または外部弁護士・第三者委員会)が担うことが求められます。モニタリング機関は幹部の影響を受けない立場の者が担い、具体的なモニタリング方法は法律上特定の方式が定められているわけではありません。ただし、モニタリングの独立性の確保自体は指針で求められている事項です。

ステップ3-4|調査の進め方と調査方法

内部通報の調査方法は法律上特段の方式が定められておらず、具体的な調査手順は企業の裁量に委ねられています。以下では、その裁量の範囲で実務上の標準として定着しているアプローチを、調査計画の策定からヒアリング・証拠収集・報告書作成まで順を追って解説します。

調査計画の策定(調査範囲・対象者・証拠の整理)

調査を開始する前に、調査計画を策定します。見切り発車での調査は、証拠の抜け漏れや関係者の口裏合わせにつながる恐れがあります。

調査計画で定めるべき項目

  • 調査範囲:通報内容に基づき、何を・どこまで調査するかを明確にする
  • ヒアリング対象者リスト:通報者・目撃者・関係者・被通報者を洗い出し、ヒアリングの順序を決める
  • 証拠保全対象:メール・チャットログ・業務システム操作ログ・経費精算データ・書類等を特定し、証拠散逸を防ぐために早期に保全する
  • 調査スケジュール:各ヒアリングの日程・証拠収集の期限・調査報告書の提出期限を設定する
  • 報告ライン:調査担当者が誰に・どの段階で・どんな形式で報告するかを明確にする

証拠保全は調査の開始直後に先行させることが重要です。電子データは削除・改ざんのリスクがあります。必要に応じてシステム管理者と連携し、対象期間のデータのコピーやアクセスログの取得を優先的に進めることが望まれます。

関係者ヒアリングの実務(被通報者・目撃者・第三者)

ヒアリングは内部通報調査の中心的な手法です。消費者庁の実務フロー(内部規程例ベース)では、調査方法に特段の方式は定められておらず、具体的な調査方法は企業の裁量に委ねられています。ただし、公正性と記録の正確性を担保するために、以下の実務上のポイントを押さえることが重要です。

ヒアリングの基本原則

  • ヒアリング順序の原則:通報者(匿名でなければ)→ 第三者・目撃者 → 被通報者の順が基本。被通報者に先にヒアリングすると、他の関係者への働きかけが生じる恐れがある
  • 口裏合わせ防止:ヒアリング対象者に対して、「調査内容・自分がヒアリングを受けた事実を他の関係者に話さないこと」を依頼する
  • 5W1Hで具体化:「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように」という軸で事実を具体的に確認する
  • 誘導質問を避ける:ヒアリングする側の主観・先入観を持ち込まず、オープンクエスチョンを基本にする

ヒアリング記録の作成

ヒアリング後は、内容を文書化した「ヒアリング記録」を作成します。作成後は対象者に内容を確認してもらい、可能であれば署名または確認のサインを得ることが望まれます。ヒアリング記録は後の事実認定の根拠となるため、発言の要旨をできるだけ正確に記録することが求められます。

ハラスメント案件のヒアリング

ヒアリング対象に被害者・加害者双方が含まれるハラスメント案件では、被害者が二次被害を受けないよう配慮した進行が不可欠です。ハラスメント調査に特化した実務の詳細は、ハラスメント調査の進め方を6ステップで解説で詳しく解説しています。

証拠収集と事実認定のポイント

ヒアリングと並行して、客観的な証拠の収集と保全を進めます。ヒアリングはあくまで「供述」であり、客観的な裏付けによって信頼性が高まります。

収集すべき証拠の種類

  • 電子的証拠:メール・チャットログ・ファイルサーバーのアクセス記録・業務システムの操作ログ・経費精算の入力履歴
  • 書面証拠:契約書・領収書・稟議書・会議議事録・内部規程・業務マニュアル
  • 物的証拠:機器・製品(品質不正等)・防犯カメラ映像・出退勤記録
  • 第三者証拠:外部業者との取引記録・仕入先からの見積書・顧客の苦情記録

供述の信頼性評価軸

複数の関係者からヒアリングした供述の信頼性を評価するための軸は以下のとおりです。

  • 一貫性:同一人物の供述が複数回のヒアリングで矛盾していないか
  • 具体性:日時・場所・金額・相手方など、具体的な情報が含まれているか
  • 他証拠との整合性:メール等の客観的証拠と矛盾していないか
  • 動機の有無:ヒアリング対象者が虚偽を述べる動機があるか

事実認定は「白か黒か」で割り切れない場合も多くあります。調査段階では「認定できる事実」「一定の蓋然性がある事実」「現時点では確認できない事実」に分類して整理することが、報告書の品質を高めます。

調査結果の整理と認定判断

調査が一通り完了したら、「調査報告書」を作成します。

調査報告書に盛り込む要素

  • 通報の概要(通報受付日・通報内容の要旨)
  • 調査方法(ヒアリング実施日・対象者・収集した証拠の種類)
  • 確認された事実(認定事実の記述と根拠)
  • 確認できなかった事実・未解明の点
  • 法令・規程への該当性の判断(「〜に抵触する可能性があります」という形で、断定を避けた記述が望まれます)
  • 是正措置への提言(推奨される対応の方向性)
  • 今後の追加調査の要否

調査報告書は、後の是正措置・通報者へのフィードバック・経営層への報告の基礎となる文書です。根拠の明示・推測と事実の区別・判断経緯の記録という観点から、丁寧に作成することが求められます。

ステップ5|通報された側(被通報者)への適切な対応

「内部通報 された側(被通報者)」への対応は、公益通報者保護法が通報者保護を中心に設計されているため、法律上の直接的な要請として明示されていない部分も多くあります。しかし、公正な調査と組織の信頼保持のために、実務上の配慮として以下を徹底することが重要です。

被通報者のプライバシー保護と守秘義務

通報者の秘密保持と同様に、被通報者の情報も適切に管理することが求められます。

情報管理の原則

  • 被通報者の氏名・所属・通報された内容は、調査に関与する必要最小限の担当者のみが知り得る状態にする
  • 「〇〇部の△△さんが通報された」という情報が職場内に広まると、仮に後に通報が事実でないと判明した場合に、取り返しのつかない名誉毀損が生じる
  • 調査中の段階では、調査の目的・範囲以外の情報を不必要に被通報者の周辺者と共有しない

通報者を特定させる情報の管理は法律上の義務(法第12条)ですが、被通報者の情報管理については法律上の直接の規定はなく、実務上の配慮・社内規程の整備で対応することになります。

情報漏えいの具体的リスク

  • 調査中にヒアリングを受けた者が「なぜか〇〇さんのことを聞かれた」と周囲に話す
  • 証拠収集のために被通報者の業務メールにアクセスした事実が漏れる
  • 調査チームが被通報者に声をかけた場面を同僚が目撃する

これらのリスクを最小化するために、ヒアリング対象者への守秘依頼・電子データへのアクセス方法の工夫・調査チームと被通報者の接触タイミングの管理が必要です。

被通報者へのヒアリング時の配慮(公正な手続き)

被通報者のヒアリングは、調査フローの中で最も慎重さが求められる段階のひとつです。

「通報=事実認定確定」ではない

内部通報はあくまで「疑いの申告」であり、調査完了前の段階では事実認定が確定していません。通報を受けたことを理由に、調査が完了する前に被通報者への懲戒・配置転換・降格等の処遇変更を確定させることは、適正手続きの観点から問題が生じる可能性があります。処遇変更が必要な場合も、「調査期間中の一時的措置」として説明し、確定的な処分は調査完了後に行うことが望まれます。

弁明・反論の機会の付与

被通報者には、調査の一環として自らの立場を説明する機会を付与することが、実務上の公正性確保の観点から望まれます。一方的な判断で処分を確定させず、被通報者の説明を聞いた上で事実認定・処分の判断を行う手順が、組織としての適正手続きを実質的に保障します。

被通報者へのヒアリングで留意すべき点:

  • 頭ごなしに「あなたが〇〇をした」と断定するアプローチを避ける
  • 「調査の一環として確認したい事項がある」という中立的なスタンスで臨む
  • 被通報者の発言を丁寧に記録し、反論の機会を実質的に保障する
  • ヒアリング担当者は複数名で行い、公正性の担保と記録の正確性を確保する

不利益取扱いの防止(通報者・被通報者双方への配慮)

通報者への不利益取扱い推定規定(法第3条第3項)

2026年12月施行の改正により、公益通報後1年以内に行われた「解雇」または「懲戒処分」は、通報を理由とするものと推定されます(法第3条第3項)。この推定を覆すためには、企業側が「通報とは無関係の理由による解雇・懲戒だった」ことを積極的に立証しなければなりません。

なお、推定規定が適用されるのは「解雇」と「懲戒処分」に限られます。降格・配置転換・賞与減額・職務変更などは推定規定の対象外です。ただし、これらの処遇変更も公益通報者保護法上の不利益取扱い禁止(同法の不利益取扱い禁止規定)の対象であることには変わりありません。

被通報者は推定規定の保護対象ではない

通報者に対する不利益取扱い推定規定(法第3条第3項)は、あくまで「通報者を保護する」規定です。被通報者がこの推定規定の対象となることはありません。ただし、被通報者に対しても、調査確定前の一方的な不利益処遇は組織としての公正性を損ない、後の紛争リスクにつながる可能性があります。

調査中の処遇変更が問題となるケース

  • 調査中に被通報者を別部署へ異動させる(業務上の必要性が明確でない場合、制裁的な意味合いを持つことがある)
  • 調査中に被通報者の業務を大幅に縮小または変更する
  • 被通報者が調査中であることを理由に、昇格・昇給の判断を一方的に停止する

これらの対応を取る場合は、「調査期間中の一時的・中立的な措置」である旨を被通報者に文書で説明し、処遇変更の理由・期間・見直し条件を明確にしておくことが重要です。

虚偽・濫用的通報だった場合の名誉回復

調査の結果、通報内容が事実でないと判明した場合や、通報が故意による虚偽申告と認められた場合には、被通報者の名誉回復に向けた対応も必要です。調査期間中に広まってしまった情報の誤りを修正する手段・被通報者へのフォロー・通報者に対する会社としての対応(就業規則上の懲戒対象となる場合がある)などを含めて、組織としての対応方針を定めておくことが重要です。

ステップ6|是正措置・クローズ・フォローアップ

是正措置の決定と実施(処分・改善策)

調査報告書に基づき、是正措置を決定・実施します。是正措置は「個人への処分」と「組織的な改善策」の2種類に整理できます。

処分(個人への対応)

調査により法令違反や就業規則違反が確認された場合、懲戒規程に基づく処分(譴責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇等)を検討します。処分の種類・重さは、就業規則の懲戒規程・事実の重大性・故意か過失かの別・再発可能性などを考慮して判断します。

組織的な改善策

処分と並行して、再発を防ぐための組織的な改善策を実施することが重要です。

  • 業務プロセスの変更(チェック体制の強化・権限分離の徹底等)
  • 内部規程・マニュアルの改訂
  • 研修・周知活動の実施
  • 管理体制の見直し(モニタリング機能の強化等)

記録の作成(指針で求められている事項)

是正措置の実施内容・実施日・担当者・根拠となった調査報告書の参照先を文書で記録します。指針では「適切な期間の保管」が求められていますが、具体的な保管期間は法律上規定されていません。類似事案の再発時の参照・行政調査への対応などを考慮して、数年単位での保管が望まれます。

再発防止策の組織展開

是正措置は当該案件の収束にとどまらず、類似事案の発生防止につなげることが重要です。

横展開のアプローチ

  • 発生した不正・コンプライアンス違反の根本原因を分析し、同様のリスクがある他部署・他プロセスへの展開策を検討する
  • 案件の詳細は秘匿したまま、「事例のパターン(業種・プロセス類型)」として研修教材に活用する
  • 全社的な周知(役員・全従業員・フリーランスへの周知)が必要な改正・規程変更は、適切な経路で速やかに実施する

モニタリング体制の継続(指針で求められている事項)

是正措置の実効性は一定期間経過後に確認することが必要です。消費者庁の内部規程例では、通報対応責任者が一定期間経過後に能動的に改善状況を調査することを求めており、特定個人が被害を受けている事案では「問題があれば再度申し出るよう通報者に伝える」ことも推奨されています。これらは指針で求められている事項として位置づけられています。

通報者へのフィードバックと経営層への報告

通報者へのフィードバック(書面通報)

書面による通報については、指針において結果や対応方針の通知を行うことが求められています。口頭・電話等による通報はこの求めの対象外ですが、制度の信頼性向上のために通知することが重要です。

通知の際には、開示可能な情報の範囲(被通報者のプライバシー・他の関係者の情報・事業機密等)を整理した上で、通報者が納得できる内容を伝えます。「調査を実施し、適切な是正措置を講じました」という報告で足りる場合も多く、詳細な調査内容・処分の中身を全開示する必要はありません。

経営層・取締役会への報告

重要な案件については、経営層・取締役会への報告が求められます。特に、法令違反が確認された案件・役員関与が認められた案件・是正措置として組織横断の対応が必要な案件は、担当者レベルでクローズせず、経営判断を仰ぐことが重要です。監査役等によるモニタリングが行われている案件は、モニタリング結果を含めた報告書を監査役等にも提出することが必要です。

調査期間の目安と短縮・長期化のポイント

標準的な調査期間の目安

内部通報の受付から是正完了まで、どのくらいの期間がかかるかは、事案の複雑さ・関係者の数・証拠の所在によって大きく異なります。なお、公益通報者保護法には調査期間の法定期限はなく、以下の数値はあくまで実務上の目安です。

以下に標準的な目安を示します。

ステップ別の標準所要時間と複雑事案の目安

以下は一般的な目安であり、法律上の期限ではありません。

ステップ標準的な目安(法定外)事案が複雑な場合の目安(法定外)
①受付通報当日通報当日
②初期評価1〜3営業日1週間程度
③調査計画3〜5営業日2週間程度
④調査実施2〜4週間1〜3か月
⑤是正措置1〜2週間1か月程度
⑥フォローアップ継続(1〜3か月)継続(3〜6か月)

合計すると、単純な案件では受付から是正完了まで1か月程度、関係者が多く証拠収集が複雑な案件では3か月以上かかることもあります。

消費者庁の指針解説では合理的な期間内での調査完了を求めており、長期間にわたって調査が未完了の場合、行政措置の対象となる可能性があります。なお、具体的な「合理的期間」の基準は事案ごとに異なり、法律上の一律基準はありません。本記事の数値はあくまで実務上の参考であり、個別事案の法的リスク評価は専門家に相談することが望まれます。

調査が長期化する要因と対策

調査が長引く主な要因

  1. 関係者が多い:ヒアリング対象者が複数部署・グループ会社をまたぐ案件
  2. 証拠が分散・デジタル化されていない:紙の書類が複数拠点に分散し、電子データの形式が異なる
  3. 匿名通報で事実確認が困難:通報者との追加確認ができず、事実の特定に時間がかかる
  4. 外部専門家の調整に時間を要する:弁護士・調査会社の日程調整・情報共有の手続きが増える
  5. 被通報者が調査に非協力的:ヒアリング拒否・証拠の提出拒否・弁護士を通じた対応要求
  6. 事案が専門的な法的判断を要する:不正会計・独占禁止法違反等、専門知識が必要

長期化を防ぐための対策

  • 調査計画の精度向上:調査開始前に対象範囲・ヒアリング順序・証拠保全計画を明確にする
  • 専門人材の早期確保:外部専門家の起用を初期評価の段階で判断し、調整時間を前倒しで確保する
  • 証拠保全の先行実施:デジタル証拠は調査計画策定前から保全を開始する
  • 調査権限の明確化:調査担当者が必要な情報・書類・システムアクセスを速やかに確保できるよう、調査権限を規程に明記しておく

迅速化と慎重さの両立

迅速な調査は重要ですが、「早く終わらせること」を優先して公正性を損なうことは避けなければなりません。

スピードを優先した場合のリスク

  • ヒアリングを省略・省力化したために事実認定が不正確になる
  • 証拠収集が不十分で、後の訴訟・行政対応時に根拠を示せない
  • 被通報者への弁明機会が形骸化し、適正手続きを欠いた処分として争われる

慎重さを優先した場合のリスク

  • 調査遅延の間に不正行為が継続・拡大する
  • 証拠が経時的に散逸・改ざんされるリスクが高まる
  • 通報者が「適切に対処されていない」と感じ、制度への不信感が高まる

両立のための取り組み

  • 優先度の高い案件(緊急性・重大性が高い案件)については、スピードと公正性を両立するための「調査マニュアル」を整備しておく
  • 調査担当者の定期的な研修(内部調査の実務・ヒアリング技法・証拠保全の方法)を実施する
  • 外部専門家との顧問契約・緊急対応の枠組みを事前に整備し、有事に即座に活用できる体制を整えておく

まとめ|内部通報対応の実効性を高めるために

本記事では、内部通報の受付から是正・フォローアップまでを6ステップで整理しました。各ステップのエッセンスを振り返ります。

6ステップのエッセンス

  1. 受付:受領通知と秘密保持(法第12条に基づく従事者指定)が初動の要
  2. 初期評価:調査要否の判断・独立報告ルートの確保・調査しない場合の理由の記録
  3. 調査計画:利益相反の排除・証拠保全の先行実施・外部専門家の起用判断
  4. 調査実施:法律上の方式規定はないが(企業裁量)、ヒアリング記録・証拠保全・事実認定の文書化を丁寧に
  5. 被通報者への対応:通報=事実確定ではない。弁明機会の付与・情報流布防止・公正な手続きが実務上の配慮として求められる。不利益取扱い推定規定(法第3条第3項)は通報者の保護規定であり被通報者には適用されない点に注意
  6. 是正・フォローアップ:書面通報への結果通知は指針が求める事項。再発防止策の横展開・経営層への報告まで完結させる

実効性を高める4つの軸

内部通報対応の実効性を高めるためには、次の4軸が鍵になります。

  • 窓口設計:匿名双方向対応・独立報告ルートの整備
  • 専門人材の確保:内部担当者の研修・外部専門家との連携体制
  • 経営層の関与:重大案件への適時報告・制度への経営コミットメント
  • フィードバック運用:通報者への結果通知・是正の実効性確認・制度のPDCA

通報制度が形骸化してしまう構造的な要因と診断視点については、内部通報制度の実態を最新調査で解説。形骸化を防ぐ4つの視点と合わせてご活用いただくことで、制度の診断と手順の整備を両輪で進めることができます。

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