不正・不祥事
公開:2025/09/14更新:2026/08/05
【最新版】上場企業の会計不正・粉飾決算 事例一覧。AIで防ぐ対策も解説
上場企業の会計不正は、日本公認会計士協会の集計で直近5年間に205社が公表しており、その多くが「粉飾決算」と「資産の流用」に大別されます。
上場企業における会計不正は、企業価値を大きく損ねるだけでなく、社会的な信頼をも失墜させる重大なリスクです。企業の経営に携わる皆様は、この見えない脅威に対し、万全の体制を築けているでしょうか?
会計不正とは、企業が財務報告を偽り、関係者を欺くために意図的に会計記録を改ざん・隠蔽する行為を指します。 主な種類には、利益を過大に見せる「粉飾決算」と、会社の資産を着服・横領する「資産の流用」があり、発覚すると企業価値の失墜や法的責任を問われる重大な事態に発展します。
日本公認会計士協会が公表した最新レポート「上場会社等における会計不正の動向(2026年版)」からは、会計不正の実態と、その深刻化するトレンドが見えてきます。
本記事では、この最新データに基づき、上場企業が直面する会計不正の最新動向とリスクを解説します。そして、従来の対策では見過ごされがちだった「共謀による不正」や「経営者による不正」に対し、AIを活用した先進的なアプローチがどのように有効であるかを探ります。
目次
データで見る上場会社等における会計不正の最新動向(2026年版)
会計不正の公表件数は高水準で推移(過去5年・年平均41社)
レポートによると、2022年3月期から2026年3月期にかけて、会計不正の発覚を公表した上場会社は計205社(うち最終の調査報告書が未公表の会社が23社)に上ります(2026年4月10日時点の公表情報に基づく集計で、今後数値が変わる可能性があります)。件数の推移を見ると、2022年3月期の33社から2025年3月期の50社まで増加してきましたが、2026年3月期は40社と減少しました。ただし、この5年間の年平均は41社であり、依然として高い水準が続いています。会計不正はもはや対岸の火事ではなく、すべての上場企業にとって喫緊の課題です。
個別企業ごとの公表状況は、企業不祥事リサーチDB「会計不正の事例データ・調査報告書一覧」で年別・手口別に確認できます。2026年8月時点で、会計不正のタグが付く案件は339件が収録されています。
会計不正の二大類型:「粉飾決算」と「資産の流用」
会計不正は、主に「粉飾決算」と「資産の流用」に分類されます。
粉飾決算
企業の業績や収益力を偽るために、財務諸表に意図的な虚偽表示を行うことです。一般的に影響額が多額になる傾向があり、2026年3月期においては、公表された会計不正のうち74.1%が粉飾決算でした(過去5年間の平均は76.8%です)。
その具体的な手口としては「架空仕入・原価操作」や「売上の過大計上」が多く見られます。特に2026年3月期には、「収益関連(売上の過大計上、循環取引、工事進行基準の操作など)」の会計不正が粉飾決算全体の25.6%を占めていました。かつては架空仕入・原価操作が多くを占めていましたが、直近では売上の過大計上と費用の繰延べがそれぞれ20.9%へと増えています。
(粉飾決算事例)―― あるグループでは、創業者を起点とした過度な業績目標の達成プレッシャーを背景に、国内外の複数拠点で不適切な会計処理が継続していました。売上の前倒し計上、棚卸資産の評価減の回避、固定資産の減損の回避、費用の不正な資産計上、引当金・負債の過少計上などが複数年度にわたって行われ、本来計上すべき費用や損失が適切な時期に反映されない状態が続いていたのです。社内の非公式な調査で不正が把握されていたにもかかわらず、内部監査部門や会計監査人に共有されず、是正が先送りされていた点も特徴的でした。
粉飾決算・開示規制違反の具体的な手口と背景・原因は、証券取引等監視委員会「開示検査事例集」に実際の検査事例として整理されています。
資産の流用
経営者や従業員等による着服行為です。「現金の横領」や「第三者の会社を介在した資金流出」が主な手口です。これらの不正は、比較的少額なケースが多いものの、発覚を逃れるために証憑書類の偽造など巧妙な隠蔽工作を伴うことが少なくありません。
(現金の横領事例)―― ある連結子会社では、経理業務をほぼ一人で担当していた元従業員が、その立場を悪用して2019年から2024年にかけて総額約1億5,800万円を着服していました。本来は上長が保管すべき銀行印を使って口座から預金を払い出し、会計帳簿にも虚偽の記帳を行って不正を隠していたのです。経理業務が属人化し、上長による監視や牽制が十分に働かなかったことから、約6年間も発見されませんでした。なお、組織的な関与や社内の協力者は確認されていません。
会計不正以外の類型については、下請取引・情報管理・表示規制などにわたるコンプライアンス違反の実例20件を業界別に整理した記事があります。
不正が多発する業種と上場市場の傾向
不正が多発する傾向は、業種や上場市場ごとにも見られます。業種別に見ると、過去5年間で最も不正が多かったのは「サービス業」で全体の23.9%(49社)を占めます。次いで「情報・通信業」(12.2%・25社)が第2位に上昇し、「卸売業」(11.2%・23社)、「建設業」(9.8%・20社)、「小売業」(7.3%・15社)と続きます。
上場市場別に見ると、各市場の上場会社数と不正の発生会社数はおおむね比例しています(不正発生の割合はプライム42.8%・スタンダード40.4%・グロース16.9%で、上場会社数の割合である42.0%・42.0%・16.1%とほぼ一致します)。ただし2026年3月期は、グロース市場での発覚が増加しており、上場から日の浅い企業(グロース市場では上場5年以上10年未満が46%で最多)における管理体制の未成熟がうかがえます。
業種別・市場別の分布は、企業不祥事リサーチDBの統計ページでも公開しています。2026年8月時点の収録743件では、業種はサービス126件・情報通信96件・卸売64件が上位です。上場市場は現行区分でプライム147件・スタンダード105件・グロース47件の順で、旧東証一部の案件が260件あります。
(サービス業の会計不正事例)―― ある旅行代理店業者では、前社長の指示のもとで、実際には従業員を稼働させていた日を休業日と偽り、雇用調整助成金等を不正に受給していました。あわせて、外部業者に実態と異なる請求書を作成させることによるソフトウェア資産の過大計上や、売上の水増し入力・回収の偽装といった不適切な会計処理も判明しています。発覚の端緒は、当局からの自主調査の依頼でした。
不正の発覚経路と、見えにくい「共謀」による不正
会計不正がどのようにして発覚するのか、その経路を見ると「当局の調査等」が最も多く、次いで「内部統制等」、「内部通報」と続きます。不正に関与するのは誰かという点では、役員や管理職が主体となるケースも少なくありません。特に近年深刻なトレンドとして、「内部共謀」による不正発覚件数が増加しており、役員や管理職が外部の協力者や社内の部下と手を組んで不正を実行するケースが多く見られます。2026年3月期は会計不正の件数自体は減少しましたが、役員が関与した不正の件数は過年度と同水準で、経営陣が主導する組織的な不正は高止まりしています。このように「共謀」や、経営者が意図的に内部統制を無視・無効化する「オーバーライド」が行われる場合、不正の発見は著しく困難になります。 これは内部統制が持つ「固有の限界」であり、従来の監査やチェック体制だけでは防ぎきれない領域と言えるでしょう。
(役員主導の循環取引事例)―― 情報・通信業のある新興企業では、グロース市場への上場から間もない時期に、代表取締役社長や取締役CFOといった経営幹部が主導し、約4年間にわたって販売パートナー向けのライセンス販売で架空の売上を計上していました。広告宣伝費や研究開発費の名目で支出した資金を取引先経由で自社に還流させる「循環取引」を組織的に運用し、過大に計上された売上高は約119億円、売上高の78〜91%が架空だったとされています。監査法人からの疑義の指摘に対しては取引の外観を変えて監査法人を交代させ、上場審査の際にも虚偽の説明や資料の改ざんが行われていました。最終的に証券取引等監視委員会の調査を端緒に発覚し、上場からわずか約10か月で民事再生・上場廃止に至っています。
商流を一周させる循環取引がどのような構造で成立し、どこに発見の端緒が現れるのかは、循環取引の仕組みと見抜くための端緒で会計・取引・書類・人の4分類に整理して解説しています。
発覚経路の一つである内部通報を起点に不正が発覚した実際の事例は、内部通報の事例10選をタイプ別に紹介。通報後の対応と企業が学ぶべきポイントで紹介しています。
海外子会社における不正の増加と地域特性
不正が発生する場所として、「海外子会社」における発覚件数が増加傾向にあります。地域別に見ると、特にアジア地域での発生が目立ちます。国別では中国が最も多く、海外子会社で不正が発覚した拠点のうち中国が10拠点・全体の約42%を占めています(次いで米国を含む北米・南米が7拠点、中国を除くアジアが5拠点です)。これは日系企業の進出が多いことも一因と考えられますが、ガバナンスの目が届きにくい海外拠点でのリスク管理の重要性が浮き彫りになった結果と言えるでしょう。
(海外子会社の会計不正事例)―― ある会社の米国子会社では、複数の類型にわたる不適切な売上計上と、ソフトウェア開発費の不適切な資産化が行われていました。売上認識の要件を実質的に満たさない取引条件を監査人に開示しないまま売上を計上したり、顧客の実需を超える規模でライセンスを一括購入させて売上を前倒し計上したり、取引先への発注と組み合わせて実質的に対価を還流させ売上をかさ上げしたりしていたのです。過年度の連結財務諸表の訂正による影響額は、総資産で最大約70億円(総資産の約26%)、純資産で最大約75億円(約33%)に及び、親会社・子会社の役員の関与も認められました。
上場企業が会計不正にどう対処すべきか:実効性のある対策とAIの可能性
従来の内部統制の限界を認識する
会計不正が発覚した企業のうち、過去5年間で92社が「過年度の内部統制報告書」の訂正報告を行っています。これは、構築したはずの内部統制システムが、実際には有効に機能していなかったことを意味します。前述の通り、特に「経営者による内部統制の無効化」や「複数の担当者による共謀」は、内部統制が機能しづらい「固有の限界」として認識する必要があります。
上場会社の不祥事の原因類型(コンプライアンス意識の欠如・監査機能の不備・管理体制の不備等)と再発防止の着眼点は、日本取引所自主規制法人「内部統制強化ハンドブック」に体系化されています。
会計不正も内部不正の一類型であり、内部統制の限界を補う組織的な防止策が求められます。内部不正全般を防ぐための基本原則と具体策は内部不正対策とは?防止が難しい理由と基本5原則から実践的な具体策まで解説で整理しています。
外部専門家を活用した不正調査体制の重要性
不正が発覚した際の調査体制に目を向けると、粉飾決算の調査では、「外部専門家のみ」による調査体制が59.1%と過半数を占めています。一方、資産の流用の調査では「社内のみ」が35.7%、「外部専門家のみ」が25.0%と、粉飾決算に比べて社内調査の比率が高くなっています。また、役員が関与する不正の場合、監査法人系や会計事務所といった公認会計士が組織的に調査に関与する傾向が強いことがわかっています。これは、深刻な不正の解明には、客観性と高度な専門性を持つ外部の力が不可欠であることを示唆しています。
不正調査の具体的な流れは、企業不祥事、その時どう動く?発覚から再発防止まで全フローを徹底解説で解説しています。また、調査によってまとめられた報告書を他社がどう読むべきかという論点は、報告書を読むのは誰か — 第三者委員会報告書が組織を変えない理由で扱っています。
新たな切り札:AIを活用した不正検知の有効性
従来の内部統制や監査では発見が困難な「共謀による不正」や「経営者不正」。その兆候を、AIを活用したメールレビューによって早期に検知できる可能性があります。こうした不正を未然に防ぐうえでは、取引データやコミュニケーションをAIが解析して兆候を早期に捉えるアプローチが有効です。その仕組みはAIによる不正検知とはで解説しています。
AIが不正検知に強い理由:
- 「海外子会社での不正、現金の横領、架空取引」など、多岐にわたる不正の手口において、その計画や実行、隠蔽の痕跡は、従業員間のメールやチャットのやり取りに隠されている場合が非常に多いです。
- AIは、人間が手作業では見落としがちな膨大なテキストデータから、不審なキーワードの組み合わせや特異なパターン、通常とは異なるコミュニケーションを自動で抽出します。これにより、法務・コンプライアンス担当者の調査対象を効率的に絞り込み、不正の兆候をいち早く「見える化」することが可能です。
- 特に「共謀」においては、複数の人物間のやり取りから不正計画や隠蔽工作の証拠をAIが効率的に発見し、従来の内部統制の限界を補完する新たな防御壁となり得ます。
AIを活用することで、不正の早期発見・早期対応を可能にし、企業が受ける損害を最小限に抑えることに貢献できます。
まとめ:不正リスクを乗り越え、持続可能な企業成長のために
上場企業における会計不正は、件数こそ高水準で推移しているものの、手口は巧妙化・組織化しています。特に、経営陣が主導する「共謀による不正」や「海外子会社での不正」は、従来の対策だけでは十分に対処できない現実を示しています。
これからのコンプライアンス戦略では、強固な内部統制の構築に加え、AIなどの先進技術を積極的に導入し、潜在的な不正リスクを『見える化』し、早期に発見・対応できる体制を構築することが不可欠です。
よくある質問
Q. 会計不正にはどんな種類がありますか?
会計不正は、大きく「粉飾決算」と「資産の流用」の2つに分けられます。粉飾決算は業績や財政状態を実態よりよく見せるための虚偽表示で、資産の流用は現金の横領など会社の資産を私的に使う行為です。件数では粉飾決算が多くを占め、2026年3月期は公表された会計不正の74.1%が粉飾決算でした。
Q. 上場企業の会計不正は増えていますか?
直近5年間は年平均41社と高い水準で推移しています。2026年3月期は40社と前年(50社)からやや減少しましたが、経営陣が主導する組織的な不正など、手口の巧妙化・組織化が課題となっています。
Q. 会計不正はどうやって発覚しますか?
発覚の経路としては「当局の調査等」「内部統制」「内部通報」が上位を占めます。ただし、経営者による内部統制の無効化や共謀を伴う不正は発見が難しく、通常のチェック体制だけでは見抜きにくいのが実情です。
Q. 会計不正を防ぐにはどうすればよいですか?
内部統制の整備に加えて、メールやチャットなど日々のコミュニケーションから異常の兆候を早期に検知する仕組みを組み合わせることが有効です。仕組みの詳細はAIによる不正検知とはで解説しています。
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