コンプラ基礎

公開:2026/08/06

コンプライアンス遵守とは?体制の7要素と「守られているか」の確認方法

コンプライアンス遵守とは?体制の7要素と「守られているか」の確認方法

コンプライアンス遵守とは、法令だけでなく社内規則や社会規範に沿って事業活動を行うことを指します。ただし規程を整備し、研修を実施し、通報窓口を設置したことは、それが日常業務で守られていることの確認にはなりません。整備の状況と遵守の状態は、別の問題として残ります。

そこで本記事では、

  • コンプライアンス遵守とは何を指すのか
  • 「整えた」ことと「遵守されている」ことの差
  • 遵守体制を構成する7つの要素
  • 部門・管理職が遵守の状態を確認する観点

を順に整理します。

なお、違反そのものの定義や分類、処分の考え方、対策ステップの全体像はコンプライアンス違反対策とは?企業が取るべき4つの対策ステップで解説しているため、本記事では遵守する側の視点に絞ります。

コンプライアンス遵守とは?

コンプライアンス遵守とは、企業が法令に加えて社内規則や企業倫理、社会規範に沿って事業活動を行うことです。ビジネスの場ではコンプライアンスを「法令遵守」と訳すことが多いものの、遵守の対象は法令だけにとどまりません

具体的には、次の3つを満たしている状態を指します。

  • 法令や条例に反する行為を行わないこと
  • 就業規則や社内規程で定めた手続きに沿って業務を進めること
  • 法令に定めがない場面でも、社会から求められる判断を選ぶこと

ここで見落とされやすいのは、遵守が「状態」を指す言葉であることです。規程を整備した時点で完了するものではなく、日々の業務のなかで維持され続けている必要があります

法令遵守との違い

法令遵守は明文化されたルールを守ることで、コンプライアンスはその外側にある社会規範や企業倫理まで含みます。法令に違反した場合は、行政処分や罰金などの制裁を受ける可能性があります。一方、企業の公式SNSでの不適切な発言は、必ずしも法律違反にはなりません。しかし企業イメージの低下や顧客離れを招くおそれがあるため、コンプライアンス上の問題として扱われます。

企業が遵守する対象は法令・社内規則・社会規範の3つ

企業が遵守する対象は、法令・社内規則・社会規範の3つに分かれます。そして対象ごとに、遵守されているかを確認する手段の性質が異なります

対象具体例遵守を確認する手段
法令労働基準法、個人情報保護法、独占禁止法法令ごとの適用範囲の棚卸し/改正時の反映記録
社内規則 就業規則、情報管理規程、稟議ルール承認記録の実在性/例外処理の頻度
社会規範ハラスメント防止、公正な取引、誠実な説明記録に残らないため、日常のやり取りからしか観測できない

法令と社内規則には、適用範囲の棚卸しや承認記録という形で確認の手がかりが残ります。一方、社会規範には、そうした記録が残りません。この違いが、遵守の確認を難しくしています。

業種によって遵守すべきルールは変わる

適用される法令や自主基準は業種によって異なるため、対象の整理は自社固有の作業になります。IT分野では情報セキュリティや個人情報の保護、製造分野では品質・安全に関する基準、金融分野では業法や監督指針が中心になります。

コンプライアンス遵守が企業に求められる理由

コンプライアンス遵守が求められる理由は、大きく2つあります。法令違反に伴う経営リスクを抑えること、そして問題が早い段階で声として上がる環境を保つことです。

行政処分や損害賠償などの経営リスクを抑える

第一の意義は、法令違反に伴う損失を避けることです。違反の内容によっては、次のような処分や損失につながる可能性があります。

  • 行政処分
  • 課徴金・罰金
  • 損害賠償
  • 取引先からの契約解除

処分の内容は法令や契約によって異なり、信用低下による取引停止や採用難化にもつながります。処分や懲戒の考え方はコンプライアンス違反対策とは?企業が取るべき4つの対策ステップで整理しています。

問題を相談・報告しやすい職場環境が保たれる

第二の意義は、問題が早い段階で声として上がる環境を保つことです。ハラスメントや長時間労働、不公正な評価が起きにくい状態は、次のような職場につながります。

  • 不適切な言動が起こりにくい
  • 問題を相談・報告しやすい
  • 相談や報告を理由に不利益を受けない

こうした環境では従業員の心理的安全性が高まり、違反の早期発見と是正につながります。

「整えた」と「遵守されている」の差

遵守体制の達成度は、「実施したかどうか」で測られることが多くあります。しかし研修の受講率や規程の整備状況が満たされていても、遵守されているかどうかは別の問題として残ります

実施の記録は、遵守されている証拠にはならない

遵守施策の達成度を測る指標として、次のようなものが使われます。

  • 研修の受講率
  • 行動規範や社内規程の整備の有無
  • 内部通報・相談窓口の設置の有無

いずれも整備の進み具合は把握できますが、基準どおりの行動が取られている証拠にはなりません

公表された事案には、整えたうえで問題が起きていた例があります。ある素材メーカーでは、2017年に自主的な品質総点検を実施していました。しかし当時把握できた不適切行為は44件にとどまり、その後も新たに48件が発生していたことが、後の特別調査委員会の調査で明らかになっています。事案の詳細はコンプライアンス違反の事例20選。業界別・身近な事例と2023〜2026年の実例で整理しています。点検という手段は動いていたにもかかわらず、実態の全体像には届いていませんでした。

むしろ、点検を行ったこと自体が「問題は解消した」という誤った安心につながる場合もあります。

当事者が違反だと認識していない

整えた体制が実態に届かない理由の一つは、当事者が自らの行為を違反と認識していないことです。公表された事案では、長年続いてきた業務の進め方が、法令上は問題に当たると認識されていなかった例が繰り返し現れます。

  • ある郵便局では、法令上必要な点呼について「忙しいときは実施しない」という認識が共有されていた
  • ある自動車部品メーカーでは、実際の振込手数料を超える金額を下請代金から差し引く事務処理が慣行として続いていた
  • ある電動工具メーカーでは、長期間発注していない金型を下請事業者に無償で保管させていた

いずれも、知識の不足だけで説明できるものではありません。基準から外れているという認識が薄い状態では、当事者からの申告や自主的な是正は期待できません。研修が無意味という話ではなく、受講の記録だけでは埋まらない領域があるということです。行為が正当化されていく心理的な条件は、不正のトライアングルとは?3つの要素別に不正が起こる要因と対策方法で動機・機会・正当化の3要素として整理されています。

確認が記録に向かい、実態に届かない

もう一つの理由は、確認の対象が記録であり、実際の行動に届いていないことです。先の郵便局の事案では、点呼を実施していないにもかかわらず記録だけが作成され、本社・支社によるチェックが書類の確認に偏っていたため、現場の実態を十分に把握できていなかったことが問題とされました。記録だけが作られていた以上、記録を突き合わせる確認では未実施を見つけられません。

ある通信関連企業では、システム管理者アカウントが個人単位ではなく複数人での共用になっていました。その結果、権限を持つ一人の担当者による個人データの持ち出しが、長期間にわたって見えない状態が続きました。誰が何を行ったかが記録の上で個人に紐づかなければ、記録を確認しても行為は浮かび上がりません。

つまり、確認の対象が記録である限り、記録が実態と乖離した時点で確認は機能しなくなります。

以上を踏まえると、遵守の状態を確認するには、規程と記録を突き合わせる作業だけでは足りません。実際の行動が現れる場所を見るという発想が必要になります。とくに社会規範の領域は、この点が顕著です。ハラスメントに当たる言動、顧客への不誠実な説明、取引先への過度な要求は、承認記録や台帳には残らず、日々のやり取りのなかにしか現れないためです。

なお、他社の事案を自社の確認方法に置き換える作業も簡単ではありません。公表された調査報告書が他組織の学びになりにくい理由は、報告書を読むのは誰か — 第三者委員会報告書が組織を変えない理由で論じています。

遵守体制を構成する7つの要素

整備は遵守の確認にはなりませんが、整っていなければ確認の起点も持てません。遵守体制は次の7つの要素で構成されます。ここでは各要素の位置づけを示し、個々の取り組みの設計は要素ごとの解説に譲ります。

  1. 経営層が方針と責任を明確にする
  2. 自社に関係する法令・リスクを洗い出す
  3. 行動規範・社内規程・業務フローを整備する
  4. 職種・役職別の研修を実施する
  5. 内部通報・相談窓口を整備する
  6. 監査・モニタリングで違反の兆候を把握する
  7. 違反発生時の調査・是正・再発防止を定める

1. 経営層が方針と責任を明確にする

この要素で決まるのは、現場が判断に迷ったときに何を基準にするかです。経営理念や行動指針にコンプライアンス遵守を明記するだけでなく、会社として禁止する行為と重視する判断基準を経営層が明文化することが出発点になります。

さらに重要なのは、業績とルールが対立する場面でどちらを取るのかを、言動で示すことです。方針では遵守を掲げながら、実際の意思決定では数字を優先する状態が続けば、現場は方針ではなく意思決定を基準にします。方針の文言と日々の判断に一貫性があるかどうかが、この要素の実質になります。

2. 自社に関係する法令・リスクを洗い出す

遵守の対象は業種や取引形態によって変わるため、自社に適用される範囲の棚卸しが必要になります。

  • 自社の事業や取引に関係する法令を把握できているか
  • コンプライアンス教育が適切に実施されているか
  • 現状に合わない社内規則や業務フローが残っていないか
  • 一部の従業員に過度な負担が集中していないか
  • 判断基準や責任の所在が曖昧な業務がないか

評価方法や優先順位の付け方はコンプライアンスモニタリングとは?具体的な手法から進め方まで解説で解説しています。

3. 行動規範・社内規程・業務フローを整備する

従業員が判断や行動の基準にできる文書を整える要素です。規程の設計はコンプライアンス違反対策とは?企業が取るべき4つの対策ステップ、内部不正対策の基本原則は内部不正対策とは?防止が難しい理由と基本5原則から実践的な具体策で整理しています。

4. 職種・役職別の研修を実施する

研修は全員に同じ内容を伝えるのではなく、職種や役職ごとのリスクに合わせて設計します。対象に応じた研修内容の例は、以下のとおりです。

対象研修内容の例
新入社員コンプライアンスの基礎知識、社内ルール、違反事例
管理職ハラスメント防止、部下への指導方法、相談を受けた際の対応
営業職顧客への適切な説明、接待・贈答、取引先との公正な関係
人事担当者採用や評価における差別防止、労務管理、個人情報の取り扱い
経理担当者経費処理、会計不正の防止、承認手続き

5. 内部通報・相談窓口を整備する

窓口は、通報を受けた後の扱いまで定まっているかで機能が変わります。

  • 匿名での通報を受け付けること
  • 通報者の秘密を守ること
  • 通報を理由とした不利益な扱いを防ぐこと
  • 調査から是正・再発防止までの流れを定めること

設置形態の選び方は内部通報窓口の設置と運用(社内・社外・併用の3パターン)、匿名対応の実務は匿名通報への対応を解説。双方向コミュニケーションと通報者保護の実務で解説しています。

6. 監査・モニタリングで違反の兆候を把握する

監査部門の独立性を保ち、日常点検で異常を捉える要素です。

  • 不自然な会計処理や申請
  • 承認手続きの省略
  • 特定の担当者への業務や権限の集中
  • 情報管理や取引における異常

内部統制の一要素であるモニタリングとは?実務での進め方と形骸化させないポイントで整理しています。

7. 違反発生時の調査・是正・再発防止を定める

初動を担当者個人の判断に委ねないために、手順を事前に定めておく要素です。

発覚から再発防止までの流れは企業不祥事、その時どう動く?発覚から再発防止まで全フローを徹底解説、調査の各ステップは社内不正調査とは?初動対応・本調査の各ステップで扱っています。

遵守の状態をどう確認するか

遵守されているかを確認するには、「意識を高める」「徹底する」といった掛け声では確認できる形になりません。どの行動を、いつ、どのように確認するのかまで決めておく必要があります。確認の観点は、管理職と部門で分けて設計します。

行動と測定方法をセットで決める

確認できる形になっているかは、目標の書き方で決まります。「コンプライアンス意識を高める」という表現では、何を達成すればよいのかを判断できず、達成の可否も後から確かめられません。

一方、「四半期ごとに担当業務のルールを確認し、判断に迷った案件は当日中に上司または相談窓口へ共有する」と定めれば、行動・期限・共有先が特定されます。

  • 何を: 対象となる業務や行為を特定する
  • いつまでに: 頻度や期限を示す
  • どのように確認するか: 誰が、何をもって実施を確かめるのか

ただし実施の確認だけでは遵守の状態には届きません。

管理職と部門では確認する観点が異なる

同じ遵守の確認でも、管理職は個人の状態を見て、部門は業務の状態を見ます。それぞれの観点を目標の形にすると、次のようになります。

  • 管理職: 月1回の1on1で部下の業務上の懸念や判断に迷っている事項を確認し、相談を受けた案件は社内で定められた期限内に担当部門へ連携する
  • 部門: コンプライアンス上のリスクが高い業務について半期ごとに手順を点検し、指摘事項の是正完了率100%を目指す

こうした確認でも捉えにくいのは、記録に残らない日常のやり取りです。内部不正が発生し長期化する構造は、内部不正はなぜ起きるのか。発生パターンと企業が取るべき4つの対策で整理しています。

コンプライアンス遵守に関するよくある質問

Q. コンプライアンス遵守と内部統制やコーポレートガバナンスはどう違うのですか。
コンプライアンス遵守は法令・社内規則・社会規範に沿って事業活動を行う状態を指し、業務の適正を確保する内部統制や経営を監督するコーポレートガバナンスは、遵守を支える仕組みの側にあります。

Q. 遵守できているかを数値で示すには、何を確認すればよいですか。
研修の受講率や規程の整備率といった実施側の指標だけでは遵守の状態は表せず、指摘事項の是正完了率や相談・通報件数の推移といった実態側の指標を併せて見る必要があります。

Q. 通報や相談がほとんど上がってこない場合、遵守できていると判断してよいのですか。
件数の少なさは問題の少なさとは限らず、制度が知られていない場合や不利益を心配して声を上げにくい場合にも件数は低く出ます。周知の状況や通報者保護の運用を確認したうえで判断する必要があります。

Q. 従業員数の少ない企業でも、7つの要素をすべて整える必要があるのですか。
要素そのものを省くのではなく、担い手の兼任と優先順位で対応する方法が考えられ、経営層の方針とリスクの洗い出しは規模を問わず必要ですが、窓口は外部委託で補える場合もあります。

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