コンプラ基礎
公開:2026/08/20
うっかりインサイダー取引を防ぐ。5つの経路と社内体制の設計
インサイダー取引は、株式で利益を得ようとした人だけが問われる規制ではありません。悪意や利益目的があったかどうかは成立の要件に含まれず、未公表の重要事実を所定の経路で知る立場にある人が、その公表前に売買すると、法令上の適用除外に当たらない限り規制に抵触する可能性があります。上場企業に勤める従業員にとっては、家族との会話や社外の人との雑談といった日常の場面が、うっかり該当してしまう出発点になり得ます。
この記事は、上場企業の従業員と、それを管理するコンプライアンス部門・法務部門を対象に、知らずに該当してしまう5つの経路と、企業側が届出・承認・記録で塞ぐ仕組みを整理したものです。投資判断や売買の可否を示すものではなく、社内の制度としてどこに手を入れるかという視点で構成しています。
目次
うっかりインサイダー取引が成立する3つの要素
インサイダー取引は、①会社関係者の立場にある人が、②所定の経路で未公表の重要事実を知り、③その公表前に売買した場合に、適用除外に当たらない限り規制の対象となります。
立場・情報・タイミングの3つがそろうと成立し得る
- 立場: 上場会社の役員・従業員など、業務で会社の情報に接する立場にあること
- 情報: 投資判断に影響する未公表の重要事実を、所定の経路で知っていること
- タイミング: その事実の公表前に、株式などの売買を行うこと
この3つに「儲けようとしたか」という主観は含まれません。金融商品取引法には課徴金制度に加え刑事罰もあり、悪質な事案では刑事告発に至り得ます。
「重要事実」は4つに分類される
- 決定事実: 合併や新株発行など、会社の機関が決定した事実
- 発生事実: 災害による損害や主要な取引先との取引の停止など、会社の意思とは別に生じた事実
- 決算情報: 売上高や利益、配当の予想や実績が公表済みの数値から一定以上ずれた場合
- バスケット条項: 上記以外でも、投資判断に著しい影響を与える事実を拾う受け皿
規制が及ぶ範囲は社外の家族や知人にも広がる
規制の対象は自社の役員・従業員に限られません。アルバイトや派遣、株主、取引先や金融機関なども会社関係者に含まれ、未公表の重要事実を伝えられた人も対象になり得ます。
なお、インサイダー取引は会計不正とは別の規制です。会計不正の類型や発覚の経緯は上場企業の会計不正・粉飾決算の事例一覧で整理しています。
知らずに該当してしまう5つの経路
うっかり該当してしまう場面は、株式投資に熱心な人だけに起きるものではありません。実際に問題になりやすいのは、家族との会話や社外の人との雑談のように、株式売買を意識していない場面から始まる経路です。
家族名義の口座での売買
自分の口座では買いにくいと考えて配偶者や親の口座から注文を出す、あるいは家族に銘柄を伝えて注文を頼む、という形が典型です。製造業の管理部門の担当者が、公表前の業績の下方修正を把握した状態で、配偶者の口座から自社株を売却したという構図が想定されます。
規制の判断で問われるのは名義が誰であるかではなく、売買の判断を誰が行ったかです。注文の判断を行ったのが重要事実を知る本人であれば、本人の売買として扱われ得ます。頼まれた家族の側も、事情を知って注文を出していれば情報を受け取った人として問われ得ます。
家族の取引を届出の対象に含めるかどうかは、一律の義務ではなく各社の実情と社内規程によります。借名口座の利用を含め、対象範囲を規程で明確にしておくことが実務上の備えになります。
会食や飲み会での雑談
社外の人との会食、同業者の集まり、社内の他部署との雑談で、公表前の話が出る場面です。小売業の店舗開発部門の担当者が、会食の場で決定済みの出店計画に触れ、同席者がその内容を把握したという構図が想定されます。
雑談で聞いた側も、その時点で規制の対象となる立場になります。情報を受け取った人は、その事実が公表される前に当該銘柄を売買すれば規制に抵触する可能性があります。伝えた側の責任については、情報伝達行為として後の節で扱います。
聞いてしまうこと自体を完全に避けるのは難しい一方、その後の行動は選べます。当該銘柄の売買を控え、いつ・誰から・どのような話を聞いたかを記録して管理部門に共有する運用が望まれます。
SNSや社外チャットへの「匂わせ」投稿
具体的な事実を書いていない投稿でも、内容が推測できる形になっている場合があります。医薬品メーカーの研究開発部門の担当者が、承認申請前の新薬の開発状況について、社外向けチャットで時期だけをほのめかす投稿をしたという構図が想定されます。この経路は本人が売買する場面ではなく、投稿によって情報を渡した側として問われ得る点で、他の経路とは向きが異なります。
- 「来週おもしろい発表があります」のように、内容を伏せたまま時期だけを示す投稿
- 社内の資料や会議の画面を撮影した画像の共有
- 出張先や打ち合わせ相手から案件が推測できる投稿
具体的な事実を書かなくても、相手が内容を推知できる投稿は情報の伝達に当たり得ます。さらに、フォロワーに売買を促す形になっていれば、後述する取引推奨行為に近づきます。
発表前の期間は、業務の状況を示す投稿そのものを控える運用が現実的です。判断に迷う投稿は、投稿する前に管理部門へ照会する習慣が実務的です。
取引先や提携先からの伝聞
自社ではなく取引先の重要事実を、業務の会話の中で知ってしまう経路です。情報サービス業の営業担当者が、取引先の公表前の資本提携の検討を業務の過程で知る立場にあった、という構図が想定されます。
規制の対象は自社株に限らず、取引先の株式の売買にも及びます。契約の締結や交渉の過程で知った場合は契約の相手方としての立場になり、業務外の会話で知った場合は情報を受け取った人としての立場になります。いずれの経路でも、当該銘柄の公表前の売買は規制の対象になり得ます。
届出の対象を自社株だけに限定している企業では、取引先の銘柄が管理の外に落ちます。届出の範囲がどこまでかは、自社の規程と管理部門への確認が必要です。
退職・異動の直後
退職や異動の直前に未公表の重要事実を知り、その後に自社株を売却する場面です。建設業の経営企画部門の担当者が、公表前の資本業務提携の検討を知る立場にあったまま退職を決め、退職手続きの中で自社株を売却したという構図が想定されます。
在職中に知った未公表の重要事実は、異動で担当を離れても消えません。当該事実が公表されたかどうかが基準になり、担当を外れたことは免罪符になりません。一方、退職の場合は、金融商品取引法上「会社関係者」として扱われるのは退職後1年以内に限られます。退職後1年以内は、在職中に知った未公表の重要事実が未公表のままであれば、元会社関係者として規制対象になり得ます。
退職に伴う従業員持株会の持分の整理や保有株の現金化は、このタイミングと重なりやすい場面です。退職時の売却や持分の整理を進める前に、当該事実の公表状況を確認できる機会を退職手続きの中に設けておくかどうかは、企業側の設計の問題です。
このうち従業員持株会と、情報を伝えた側の責任は、制度としての理解が別に必要になるため、続く2つの節で扱います。
従業員持株会が「安全」とされる範囲と、そこから外れる境界
従業員持株会を通じた買付けは、一定の要件を満たす限り適用除外として扱われます。ただし安全とされているのは個別の投資判断が入らない定額の積立という限られた範囲です。
| 段階 | 適用除外との関係 | 管理部門への確認 |
|---|---|---|
| 新規加入の申込み | 加入の判断をその時点で行うため、枠内とは言えない場面があります | 必要 |
| 定額の継続拠出 | 個別の判断が入らないため、枠内として扱われます | 原則として不要 |
| 拠出額の増額 | 増額の意思表示はその時点の判断に当たるため、前提から外れ得ます | 必要 |
| 持分の引出し | 買付けでも売却でもない手続きで、適用除外の対象そのものではありません | 必要に応じて |
| 引き出した株式の売却 | 通常の売買と同じ判断が必要になります | 必要 |
適用除外が認められる理由は「個別の投資判断が入らない」こと
適用除外の根拠は「持株会という制度だから」ではなく、一定の計画に従い、個別の投資判断に基づかず継続的に買い付けている点にあります。毎月一定額を拠出し、集まった資金でまとめて買付けが行われる形であれば、いつ・いくら買うかを本人が都度決めていません。
この計画性・継続性と、個別の判断が関与しないという性質がそろっているため、未公表の重要事実を知っている状態であっても、その情報を利用した売買とは評価されにくくなります。適用除外となる定時定額の買付けには、各役員・従業員の1回当たりの拠出額が200万円未満であることも求められます。
拠出額の増額と新規加入は前提が崩れ得る
増額と新規加入は、そのタイミングで行う個別の判断であるため、適用除外の前提から外れ得ます。未公表の重要事実を知っている状態で増額を申し出た場合、「知っていたから増やした」という評価を否定しにくくなります。
経理部門の担当者が公表前の決算数値を把握していた時期に増額を申し込むと、本人に意図がなくても疑いの対象になり得ます。
運用としては、次の設計が取られます。
- 増額と新規加入の受付を、決算発表後の一定期間に寄せる
- 申込みの時点で、未公表の重要事実を知らないことの確認を取る
- 受付日と申込内容を記録し、公表の時期と突き合わせられる形にする
引出しと売却は適用除外の外側にある
買付けが適用除外の枠内にあっても、持分の引出しと、引き出した株式の売却は別の行為です。適用除外の対象になっていないのは、持株会から引き出した株式を売却する行為です。引出し自体は社内の手続きですが、退職や異動に伴う持分の整理では引出しに続けて売却まで進み、人事や総務の流れで進むため株式の売買として扱う意識が薄れやすい場面です。
売却の受付を社内の売買禁止期間とどう組み合わせるかは、企業側の規程で決める事項です(後述)。
伝えた側も問われる。情報伝達行為と取引推奨行為
未公表の重要事実を他人に伝える行為と、他人に売買を勧める行為も、本人の売買と同様に規制の対象です。情報伝達・取引推奨規制は、2013年の金融商品取引法改正で追加され、2014年4月に施行されました。
成立の要件は主体・相手方・目的の3つに分解できる
金融商品取引法第167条の2は、重要事実の公表前に売買等をさせることによって相手に利益を得させ、または損失の発生を回避させる目的で行う情報伝達・取引推奨を禁止しています。規制の対象になるかどうかは、次の3つの要素で判断されます。
- 主体: 会社関係者など、未公表の重要事実を知る立場にある人
- 相手方: 社内の役職員を含む他人。社内か社外かを問わず、相手方に特段の限定はありません
- 目的: 公表前に売買等をさせることによって、相手に利益を得させ、または損失の発生を回避させる目的
未公表の重要事実そのものを伝えなくても、この目的で当該銘柄の売買を勧める行為は、情報伝達行為とは別に取引推奨行為として規制されます。
「目的」が要件に含まれるため、業務上必要な範囲の共有や、目的を伴わない日常の会話がただちに該当するわけではありません。
ただし目的の有無は本人の説明だけでなく、誰に、どの時期に、どういう伝え方をしたかという外形から評価されます。金融庁は2013年9月12日、「情報伝達・取引推奨規制に関するQ&A」を公表しています。
相手が実際に売買しなかった場合の扱い
相手が売買しなかった場合でも、伝えた行為そのものは規制の対象です。受領者が公表前に売買等をしなかった場合も規制違反となり得ますが、伝達者・推奨者に対する刑事罰と課徴金は、受領者が実際に公表前の売買等をした場合に限られます。伝えた時点で行為は完了しており、その後に相手が売買するかどうかを伝えた側は制御できません。
この非対称性は、会社側の初動の設計に直接影響します。相手が売買したかどうかを確認できるまで対応を保留する運用では、行為そのものへの対処が遅れます。伝達行為が疑われた段階で、相手の売買の有無にかかわらず、誰に何を伝えたかを記録し管理部門に共有する体制が必要になります。この点は、届出制度が売買の場面だけを想定していると機能しない理由でもあります。
「善意の共有」がどこから伝達行為になるか
悪意のない共有であっても、相手に利益を得させ、または損失を回避させる目的が伴えば規制の対象に近づきます。社内の他部署への共有、家族への相談、転職先への説明といった場面が該当し得ます。
要件に触れるかどうかを分けるのは、共有した相手が株式を保有しているかどうかではなく、公表前の売買をさせて利益を得させ、または損失を回避させる目的があったかどうかです。たとえば転居や転職の相談として家族に会社の状況を話す場面では、伝えた側にその目的がなければ、家族が当該銘柄を保有していても要件を満たすとは限りません。
該当性の判断は個別の事情に大きく左右されるため、自社の管理部門や専門家への照会が望まれます。
会社として防ぐ仕組み。重要事実の管理と売買届出フローの設計
会社側の対策は、社内規程を整えることそのものではありません。未公表の重要事実を渡す範囲を限定する仕組みと、株式の売買を届出と承認で通す仕組みの2系統を用意し、そのうえで規程に落とすという順序になります。
ここからは、設計する側であるコンプライアンス部門・法務部門の視点に切り替わります。社内規程は内部者取引防止規程などの名称で整備されることが多いものの、条文を揃えることが目的ではありません。
未公表の重要事実を渡す範囲を限定する
情報管理の単位は部門ではなく案件で、関与者のリストを更新し続けることが運用の中心になります。部門の間に一律の壁を作るのではなく、案件ごとに誰が関与しているかを把握し、必要な人にだけ情報を渡す形が一般の事業会社では現実的です。
具体的には、次の3点を決めておく形になります。
- 管理の対象とする案件の一覧と、案件ごとの管理責任者
- 案件ごとの関与者リストと、その更新のタイミング
- 部門をまたいで共有した場合に、誰にいつ渡したかを残す方法
証券会社では部門間の情報の遮断が制度として求められますが、一般の事業会社ではそこまでの分離を前提にできません。代わりに、案件単位で関与者を限定し、異動やプロジェクトの終了に合わせてリストから外す運用で近い効果を狙います。
売買の届出から承認・記録までのフローを設計する
情報を渡す範囲が決まったところで、次はその情報に触れた人の売買をどう通すかという設計に移ります。届出制度は次の5段階で組み立てられます。
- 申請: 本人が、銘柄・数量・希望する時期を届け出ます。家族名義の口座と取引先の銘柄を対象に含めるかどうかを、規程で明示しておく必要があります
- 受付: 管理部門が、売買禁止期間の設定状況と、重要事実の管理台帳の関与者リストを照合します
- 承認: 承認権者が可否を判断します。承認する側が当該重要事実を知る立場にある場合は、別の承認者へ振り替える経路を用意します
- 通知: 可否と判断の理由を本人に伝えます。時期を限定するなど条件付きで承認する場合は、その条件も伝えます
- 記録: 申請内容・照合の結果・判断の理由・通知の日付を一組で保管します
記録に残すのは可否の結論ではなく、判断の理由と照合した材料です。結論だけを残す運用では、後から「なぜこの申請が通ったのか」を再現できず、点検も外部への説明も成立しません。
売買禁止期間と持株会運営をルールとして明文化する
売買禁止期間は日数に正解があるわけではなく、対象者の範囲と持株会の受付時期まで含めて設計する対象です。決算発表の前後を一律の禁止期間とする運用が広く取られますが、期間の長さは会社の開示のサイクルや事業の性質によって変わります。
規程で決めておく必要があるのは、期間の日数だけではありません。対象者を全従業員とするのか、役員と特定部門に絞るのか、対象に含める銘柄を自社株だけとするのかという範囲の設計が伴います。
従業員持株会についても、増額・新規加入・引出しの受付を決算発表後のどの時期に置くかを規程側で決めておく形になります。持株会の事務が人事や総務にある場合は、その運用が管理部門の設定した禁止期間と整合しているかの確認が必要です。
周知と研修はタイミングで設計する
研修は頻度ではなくタイミングで設計し、立場が変わる節目に当てることが実効的です。年1回の一律の研修だけでは、規制の対象になる立場に変わった瞬間をカバーできません。
節目として押さえたいのは、入社時、異動時、出向時、案件への参画時、そして退職前です。特に案件への参画時と退職前は、重要事実に触れる立場の出入りが起きる場面であるにもかかわらず、研修の設計から漏れやすくなります。
対象者の範囲も設計の一部です。正社員に限らず、有期雇用の従業員や派遣、業務委託先の担当者も重要事実に触れる場合があります。誓約書の取得は、本人の理解を確認する手段と、企業が周知を行った記録という二つの意味を持ちます。全体の位置づけはコンプライアンス違反対策の4つのステップで整理しています。
作った仕組みを効かせる。記録の点検と疑いが生じたときの初動
規程と届出制度を整えた後に残る課題は、それが実際に守られているかを確かめる手段と、疑いが生じたときに誰がどう動くかです。この2つを欠くと、届出のない売買や情報の伝播が見えないまま積み上がります。
届出記録と実際の取引を突合する
突合するのは届出の内容だけではなく、案件の関与者リストと禁止期間の設定履歴まで含めた3点です。
- 売買の届出記録 (申請内容・承認の可否・判断の理由)
- 重要事実の管理台帳 (案件の一覧と、案件ごとの関与者リスト)
- 売買禁止期間の設定履歴 (いつ、どの範囲に設定したか)
役割は分けておく形が実務的です。コンプライアンス部門が届出の受付と一次点検を担い、内部監査部門が運用そのものの点検を担う二層構成にします。頻度は公表イベントの後と定期監査の2軸で組みます。
適時開示の担当との連携も欠かせません。公表の時期が動けば売買禁止期間の設定も動くため、開示の決定や変更を管理部門へ即時に伝える経路が必要です。関与者リストの点検では、社内チャットの共有状況を補助資料として確認する方法も考えられます。チャットの点検の進め方はAIチャット監視でできることと進め方で整理しています。
疑いが生じたときの初動と自主申告の受け皿
初動で最初に行うのは本人への確認ではなく、記録の保全と関係者の範囲の確定です。先に聞き取りを行うと、記録が失われたり説明の口裏が合わされたりする可能性があります。届出の記録、案件の関与者リスト、メールやチャットの履歴を保全したうえで、事実関係の確認に進む順序になります。
本人が「該当したかもしれない」と気づいたときに相談できる窓口を、平時に用意しておくことも欠かせません。自主申告した人を一律に不利に扱う運用では、申告は上がってきません。
規制に抵触する可能性が見えた段階では、外部の専門家への相談が必要になります。初動の保全が事後の選択肢を左右します。
届出と記録の点検で分かるのは、届け出られた売買と設定された期間の整合までです。未公表の重要事実が社内のどの経路で誰に渡ったかは、届出の記録には残りません。NaLaLys では、メールやチャットのコミュニケーションを分析して不正リスクの兆候を平時から把握する仕組みを提供しています (NaLaLys の製品情報)。
うっかりインサイダー取引に関するよくある質問
Q. 未公表の重要事実を知った時点で既に保有していた株式は、そのまま持ち続けても差し支えありませんか。
規制の対象は売買などの取引であり、保有を続けること自体は取引に当たりません。ただし公表前に売却すれば規制に抵触する可能性があるため、保有と売却では扱いが分かれます。個別の事情で判断が変わる部分があるため、自社の管理部門や専門家への確認が必要です。
Q. 家族が同じ上場企業に勤めているだけで、その会社の株式を売買できなくなりますか。
家族が在職しているという事実だけで売買が制限されるわけではありません。問題になるのは、その家族から未公表の重要事実を伝えられた場合や、本人がその事実を知って注文を出した場合です。社内規程で家族の取引まで届出の対象としている会社もあるため、自社の規程の範囲の確認が必要です。
Q. 上司や他部署から共有された情報が重要事実に当たるかどうか判断できない場合、どう扱えばよいですか。
判断がつかない段階で自分だけで結論を出さず、当該銘柄の売買を控えたうえで管理部門に確認する流れが安全です。いつ・誰から・どのような情報を受け取ったかを記録しておくと、確認も事後の説明も進めやすくなります。バスケット条項があるため、列挙された類型に当てはまらないという理由だけで該当しないと判断するのは危険です。
Q. 社内の売買届出制度に違反した場合、法令違反にもなりますか。
届出を怠ったこと自体は社内規程の違反であり、法令違反とは別に扱われます。ただし届出を経ていない売買が、未公表の重要事実を知る状態で行われていた場合には、規制に抵触する可能性があります。社内規程は、法令に触れる手前で止めるための仕組みという位置づけになります。
Q. 社内規程で定める売買禁止期間を過ぎていれば、自由に売買してよいのですか。
売買禁止期間は企業が一律に設定する運用上の枠であり、期間外なら規制に触れないという意味ではありません。期間外であっても未公表の重要事実を知っていれば、公表前の売買は規制の対象になり得ます。期間の内外にかかわらず、公表の状況と自身が知っている情報を踏まえた管理部門への確認が必要です。
まとめ
要点は次の6つに整理できます。
- 悪意や利益目的は成立の要件に含まれず、立場・情報・タイミングという3つの要素と、法令上の適用除外の有無で判断されます
- 該当の経路は日常の延長にあり、家族名義の口座・雑談・SNS・取引先からの伝聞・退職直後が典型です
- 従業員持株会は制度だから安全なのではなく、拠出額の増額や新規加入、引き出した株式の売却は前提から外れ得ます
- 自分が売買しなくても、相手に利益を得させ、または損失を回避させる目的で情報を伝えたり取引を勧めたりすると、規制の対象になり得ます
- 企業側は、情報を渡す範囲の限定と、売買の届出・承認・記録の2系統で設計します
- 仕組みが機能しているかは記録の点検で確認し、疑いが生じた際は本人への確認より先に記録を保全します
情報経路を把握し、判断の理由を記録に残す仕組みは、インサイダー取引の未然防止と事後の検証に役立ちます。NaLaLys では、社内のコミュニケーションから不正リスクの兆候を検知する仕組みを提供しています (NaLaLys の製品情報)。