2026/07/28
解説
コーポレートガバナンスコード改訂 (2026年)。解釈指針の新設と4つの変更点
コーポレートガバナンス・コードの2026年改訂は、2026年7月21日に金融庁・東京証券取引所が公表した改訂で、従来の補充原則を廃止して新たに「解釈指針」を設け、コードの規範を基本原則4+原則26の計30に整理したものです。上場会社は、遅くとも2027年7月末日までに、改訂版コードに関する事項を記載したコーポレートガバナンス報告書を提出する必要があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公表日 | 2026年7月21日 (金融庁・東証が2026年改訂版を公表。改訂に係る東証の有価証券上場規程の一部改正も同日施行) |
| コーポレートガバナンス報告書の提出期限 | 遅くとも2027年7月末日 (別紙3 Ⅲ) |
| コードの構成 | 基本原則4+原則26=計30/補充原則は概念として廃止/「解釈指針」を新設 (24箇所) |
| 本記事の対象範囲 | 内部統制・全社的リスク管理 (原則4-4)/内部監査部門 (原則4-14)/内部通報 (原則2-3)/取締役会の監督 |
本記事はコーポレートガバナンスコード改訂の全体を網羅するものではなく、内部統制・全社的リスク管理、内部監査、内部通報、取締役会の監督の4点に絞って解説します。改訂の全体像は金融庁「コーポレートガバナンス・コード (2026年改訂版) の確定について」(2026年7月) および別紙4「コーポレートガバナンス・コード改訂 (2026年) の概要」(2026年) で確認できます。
目次
コーポレートガバナンスコード改訂の全体像
今回の改訂を一言で表すと
今回の改訂の性格は、形式的な「コード対応」から実質的なガバナンスへ重心を移す、プリンシプル化とスリム化です。改訂版コードの序文 (第11項) は、改訂の趣旨を次のように説明しています。
このような問題意識の下、2026年改訂においては、プリンシプルベース・アプローチ及びコンプライ・オア・エクスプレインの手法を採用する本コードの趣旨に立ち返り、本コード自体の実質化を図る観点から、「プリンシプル化」・「スリム化」が行われた。
この「コードの実質化」が、改訂を読み解く基準になります。
今回初めて原則主義になったわけではない
プリンシプルベース・アプローチは今回の改訂で初めて採り入れられたものではなく、コードは2015年の適用開始時点から、細則を列挙する方式ではなく原則を示して各社の状況に応じた適用を求める方式を採ってきました。改訂版コードの序文 (第8項) も、この考え方を次のように述べています。
そのため、本コードの各原則は、それぞれの上場会社が自らの置かれた状況に応じて実効的なコーポレートガバナンスの実現に繋がるよう工夫して適用すべきものである。
一方で実務では、次のような運用が生じやすい構造がありました。
- コーポレートガバナンス報告書で「実施済み」と回答できる状態そのものを目的にする運用
- 他社の記載例をひな型として流用する開示
- 規程や委員会が存在することをもって対応済みと評価する運用
今回の改訂は、こうした形式的な運用に原則主義の趣旨への回帰を促すもので、新しい方式への転換ではなく当初からの方式の徹底です。「新しい項目がいくつ増えたのか」という読み方は、改訂の趣旨と噛み合いにくいものです。
数字で見る改訂。原則30と解釈指針24箇所
改訂後のコーポレートガバナンスコードの構成は次のとおりです。
- コードの規範は、基本原則4と原則26の計30に整理されました。
- 「補充原則」は概念として廃止されました。改訂後コード本文で「補充原則」の語が登場するのは、序文第12項の説明箇所の1回のみです。
- 「解釈指針」が新設され、基本原則4本のすべてと原則26本のうち20本、合わせて24箇所に置かれています。
以降の原則・解釈指針の逐語引用は、金融庁・東証「コーポレートガバナンス・コード (2026年改訂版)」(別紙1・2026年) からの引用です。
「原則+解釈指針」への再編をどう読むか
旧3層構造から新2層+解釈指針へ
改訂前のコードは、基本原則・原則・補充原則の3層構造でした。改訂後は基本原則と原則の2層となり、すべての基本原則と一部の原則に「解釈指針」が付されています。
ガバナンスコードの改訂内容を確認する際は、この2層+解釈指針の構造を前提に、どの記載がどちらに属するかを見る必要があります。
原則と解釈指針の位置づけの違い
原則の側は、従来と同じくコンプライ・オア・エクスプレインの対象です。実施しない場合には、コーポレートガバナンス報告書でその理由を説明することが求められます。
解釈指針の側について、改訂版コードの序文 (第9項) は次のように位置づけています。
これらの「解釈指針」は、コンプライ・オア・エクスプレインの対象ではないが、各原則についての実質的な対応を支援する役割を担うものであり、当該原則の背景となる考え方、目的のほか、当該原則を履行するための最良の手法(いわゆるベストプラクティス)や優れた手法(いわゆるグッドプラクティス)の一つと考えられる方策も含まれる。上場会社は「解釈指針」において示されたこれらの内容を参照しつつ対応することが期待されるが、各原則の趣旨・精神に沿った対応がなされる限りにおいて、その具体的な実現手法は各社に委ねられる。
解釈指針に示された方策以外の方法を選ぶことは可能ですが、その場合は、選んだ方法が当該原則の趣旨・精神に沿った対応であることを説明できる状態にしておく必要があります。
旧補充原則はなくなったのか
改訂版コードの序文 (第11項・第12項) によれば、従前の補充原則は再整理され、次の3つの行き先に分かれています。
- ガバナンスの中核となる箇所は、原則へ格上げされました。
- 実質的な対応を支援する記載は、解釈指針へ移管されました。
- コード内の他の箇所または法令等と重複がある箇所等は、削除されました。
序文 (第12項) は、その位置づけを次のように述べています。
当該改訂においてコンプライ・オア・エクスプレインの対象から外れ「解釈指針」に移管された記載や本コードから削除された記載について、当該改訂後にはその重要性が失われたと考えることは適切ではなく、上場会社は、このようなプリンシプル化・スリム化の趣旨を十分に理解した上で、本コードの各原則への対応の実質化に取り組むことが期待される。
この記述を踏まえ、改訂後のコードは説明義務の範囲 (形式面) と求められる対応水準 (実質面) を分けて読む必要があります (詳細は内部監査部門の項)。
本記事が扱う4論点の新旧対応
本記事が扱う4論点では、原則本文への格上げと解釈指針への降格が逆方向に同時に起きています。新旧の対応は次のとおりです。
| 改訂前 | 改訂後 | 説明義務 (コンプライ・オア・エクスプレイン) | 移動の方向 |
|---|---|---|---|
| 補充原則4-3④ (内部統制・全社的リスク管理体制の整備) | 原則4-4 本文+解釈指針 | 対象 → 対象 (原則本文へ) | 格上げ |
| 補充原則4-13③ (内部監査部門の取締役会・監査役会への直接報告の仕組み) | 原則4-14 の解釈指針 (直接報告の文言は維持) | 対象 → 対象外 | 降格 |
| 補充原則2-5① (経営陣から独立した窓口の設置・情報提供者の秘匿・不利益取扱の禁止) | 原則2-3 の解釈指針 | 対象 → 対象外 | 降格 |
| 原則2-5 (内部通報) 本文 | 原則2-3 (内部通報) 本文に圧縮 (取締役会の運用監督は維持) | 対象 → 対象 | 番号変更+圧縮 |
第3列は説明義務の所在、第4列はその範囲が動いた方向を示すもので、求められる対応水準の評価ではありません。第4行は原則本文にとどまった例です。
内部統制・全社的リスク管理は”格上げ”された
旧補充原則4-3④が原則4-4本文へ
内部統制と全社的リスク管理体制の整備は、改訂前は補充原則4-3④に置かれ、改訂後は原則4-4 の本文と解釈指針に移りました。原則本文は次の一文になっています。
取締役会は、内部統制や全社的リスク管理体制を適切に整備すべきである。
改訂前も説明義務の対象であり、格上げによって説明義務の範囲が増えたわけではありませんが、原則本文が一文に圧縮された分、実質的な内容は解釈指針の側に置かれる構造になっています。
解釈指針が取締役会に求めること
原則4-4 の解釈指針は、次のように始まります。
内部統制や先を見越した全社的リスク管理は、適切なコンプライアンスの確保により持続的に信頼を維持し、リスクを最小化するために重要であるのみならず、経営陣が果断にリスクテイクを行うための裏付けとなり得るものであるから、取締役会は、グループ全体を含めたこれらの体制を適切に構築するとともに、内部監査部門を活用しつつ、その運用状況を監督すべきである。
解釈指針が取締役会に求めている要素は次の5点です。
- グループ全体を含めた体制の構築
- 内部監査部門の活用
- 体制の存在ではなく運用状況の監督
- 先を見越したリスクの把握
- 果断なリスクテイクの裏付けとしての活用
このうち「運用状況の監督」は、改訂後の実務で評価が難しい部分です。モニタリングの具体的な進め方は内部統制の一要素であるモニタリングとはで解説しています。
「リスクを減らす」だけでは足りない
原則4-4 の解釈指針には、守りの役割と攻めを支える役割の両面が併記されています。
この併記を踏まえると、リスク管理部門に求められるのは「危険だから実施すべきではない」という結論の提示ではありません。どの条件・統制・モニタリング・撤退基準があれば許容範囲で実行できるかを示すことが、取締役会の判断を支える情報になります。
そのためには、自社が受け入れる水準を示すリスク許容度と、統制を講じてなお残る残存リスクを、取締役会が把握できる形で示す必要があります。
考慮事項として例示されたリスク
原則4-4 の解釈指針には、改訂前の補充原則4-3④には見られなかった記述として、次のリスクが挙げられています。
- サイバーセキュリティリスク
- 国際的な経済安全保障を巡る環境変化等の地政学的要因によるサプライチェーン途絶リスク
- 技術等の情報流出リスク
解釈指針は、これらへの対応等も「収益機会にもつながり得るものとして、リスク管理体制を整備する際の考慮事項に含まれ得る」としています。
内部監査部門は”原則本文から消えた”
「内部監査部門」4回の登場はすべて解釈指針
原則本文へ格上げされた内部統制とは逆に、改訂版コード (2026年改訂版) で「内部監査部門」の語は4回登場し、その所属はすべて解釈指針です。基本原則および原則の本文には一度も登場しません。
| # | 所属する原則 | 本文か解釈指針か |
|---|---|---|
| 1 | 原則3-3 (会計監査人) | 解釈指針 |
| 2 | 原則4-4 (内部統制・全社的リスク管理) | 解釈指針 |
| 3 | 原則4-14 (取締役会における審議の活性化等) | 解釈指針 |
| 4 | 原則4-14 (同上) | 解釈指針 |
内部監査部門から取締役会への直接報告は原則4-14の解釈指針へ移った
内部監査部門から取締役会・監査役会への直接報告は、改訂前は補充原則4-13③に置かれ、コンプライ・オア・エクスプレインの対象でした。改訂後は原則4-14 の解釈指針に移り、次の記述になっています。
上場会社は、取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門がこれらに対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築すること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである。
この文は、旧補充原則4-13③の第1文と一字一句同じです。ただし旧補充原則4-13③にあった社外取締役・社外監査役への情報提供の工夫に関する第2文は別の扱いで、維持されているのは直接報告に関する第1文に限られます。
これをどう読むか。形式と実質を分ける
まず形式面です。内部監査部門からの直接報告に関する記載が解釈指針へ移ったことにより、この記載はコンプライ・オア・エクスプレインの直接の対象ではなくなりました。
次に実質面です。原則4-4 の本文と解釈指針は、取締役会が「内部監査部門を活用しつつ」運用状況を監督することを前提としており、内部監査部門の機能発揮は原則4-4 を履行する手段として引き続き求められます。前述の序文 (第12項) も、解釈指針へ移管された記載の重要性が失われたと考えることは適切ではないと明示しています。
補強となる記載として、金融庁「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」(別紙3・2026年) は、「②監査役会設置会社から監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社に移行する場合には、取締役との連携を含めた内部監査部門の機能発揮が特に重要となる、といった指摘もある」と記載しています。これは改訂で新たに設けられた要件ではなく、指摘として紹介されている記述です。位置づけを見直す起点は、報告書の記載欄ではなく、原則4-4 の履行を支える機能が実際に働いているかにあります。
内部監査部門について実務で確認すべき論点
点検の際は、規程の記載ではなく実際に機能しているかを問う形になります。確認の観点は次の6点です。
- 監査役会・監査委員会への直接報告の経路が確保されているか
- 社外取締役と内部監査部門が意見交換する機会があるか
- 経営陣を介さず取締役会・監査役会へ報告できる経路があるか
- 重大な事案を臨時に報告する基準が定められているか
- 内部監査部門の人事・予算・評価に取締役会が関与しているか
- 監査の範囲を内部監査部門が独立して決定できるか
いずれも、規程上の建付けと実際の運用が乖離しやすい項目です。
指摘件数から経営上の意味へ
取締役会への報告が監査件数・指摘件数・改善完了率といった件数情報で終わる場合、原則4-4 が求める運用状況の監督には結び付きにくくなります。取締役会が判断のために必要とする情報は次の事項です。
- 重大な指摘が企業価値に与える影響
- 他部門や子会社への波及可能性
- 指摘の根本原因
- 改善が遅延している理由
- 経営陣が受容している残存リスク
- 取締役会の判断を要する事項
監査計画に何を反映するかという論点はここから派生します。監査計画のリスクベース化の手順はリスクベース監査とは。網羅型との違い・実務ステップで解説しています。
内部通報は”具体策が解釈指針へ移った”
内部通報は原則2-5から原則2-3へ
内部監査部門と同じ移動が内部通報の具体的な規律にも起きています。内部通報に関する原則は原則2-5 から原則2-3 へ番号が変わり、本文が次の一文に圧縮されました。
上場会社は、内部通報に係る適切な体制整備を行い、取締役会は、その運用状況を監督すべきである。
取締役会による運用状況の監督が求められている点は改訂で新たに設けられたものではなく、改訂前の原則2-5 の本文にも同趣旨の記述があり改訂後も維持されています。
重要なのは、内部通報が改訂後も原則本文に置かれ、コンプライ・オア・エクスプレインの対象であり続けている点です。
独立した窓口・秘匿・不利益取扱の禁止は解釈指針へ
一方で、内部通報体制の具体的な規律は、改訂前の補充原則2-5① から原則2-3 の解釈指針へ移りました。解釈指針の記述は次のとおりです。
上場会社は、その従業員等が、不利益を被る危険を懸念することなく、違法又は不適切な行為・情報開示に関する情報や真摯な疑念を伝えることができるよう、また、伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用されるよう、内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置を行うべきであり、また、情報提供者の秘匿と不利益取扱の禁止に関する規律を整備すべきである。
文言として維持されている要素は、次の3点です。
- 経営陣から独立した窓口の設置
- 情報提供者の秘匿
- 不利益取扱の禁止に関する規律の整備
改訂前との違いは2点です。第一に、旧補充原則2-5① の括弧書き (社外取締役と監査役による合議体を窓口とする例) は解釈指針に置かれていません。第二に、旧原則2-5 の本文にあった「不利益を被る危険を懸念することなく」「客観的に検証され適切に活用されるよう」という記述が解釈指針に取り込まれています。
解釈指針へ移っても求められる対応水準が変わらない点は、内部監査部門の項と同じ整理です。制度そのものの全体像や体制整備の要件については、内部通報制度とは。体制整備義務から実効性ある運用までの完全ガイドで解説しています。
一方で、法律側の要求は上がっている
コード上の説明義務の範囲が動いた一方で、内部通報をめぐる法律側の要求は強まる方向にあります。公益通報者保護法の改正が2026年12月に施行され、事業者に求められる体制整備に関する規律が強化されるためです。
コード上は具体的な規律が説明義務の対象から外れ、法律上は求められる水準が上がるという方向の異なる動きが同時に起きています。コード側だけで検討すると、この非対称を見落とすことになります。改正法への企業対応は公益通報者保護法 改正 企業対応ガイドで解説しています。
内部通報について実務で確認すべき論点
原則2-3 の本文が取締役会による運用状況の監督を求めている以上、点検では次の観点が必要になります。
- 通報件数の増減のみで制度を評価していないか
- 通報の内容から組織文化や統制上の問題を把握できているか
- 同種の問題が他部門や子会社に存在しないか検討しているか
- 経営陣が関与する案件を独立して調査・報告できる設計か
内部監査部門とリスク管理部門の役割分担
リスク管理部門の役割
原則4-4 が「内部監査部門を活用しつつ」の監督を求める以上、リスク管理部門が担うのは、全社的なリスクの識別と評価、リスク許容度の提示、統制の設計と運営、経営陣への報告です。事業部門とともに、リスクを引き受けて管理する側の機能です。
内部監査部門の役割
これに対して内部監査部門が担うのは、リスク管理の枠組み自体が機能しているかを独立した立場から検証し、その結果を取締役会・監査役会に報告する機能です。原則4-14 の解釈指針が求める直接報告の仕組みは、この報告経路を確保するためのものです。
避けるべき状態。自己監査の罠
実務上問題になりやすいのは、この2つの機能が混ざった状態です。具体的には、次のような状態が挙げられます。
- 内部監査部門が全社リスク一覧の作成主体になっている
- 主管部門が行うべき対応を内部監査部門が代行している
- リスク許容度を内部監査部門が自ら決定している
- 統制を設計・運営したうえで、自らその統制を監査している
これらの状態では、内部監査部門の独立性が失われ、取締役会に届く検証結果が実質的には自己評価になります。役割分担の点検は改訂対応の前提であり、混ざる要因については内部監査部門は誰の味方か — 三線防衛モデルが機能しない3つの罠でも取り上げています。
改訂対応を「チェックリスト対応」に戻さないために
項目を追加する改訂ではない
改訂対応として確認項目を追加する方向で作業を進めると、原則主義への回帰・徹底という改訂の趣旨とずれる可能性があります。規程が整備されている、委員会を定期的に開催している、年1回の報告を行っている、確認表の全項目に○が付いている、といった状態は、体制が存在することの確認にはなりますが、原則4-4 が求める運用状況の監督が行われている証拠にはなりません。
論点整理のしかた
論点の整理は、適合判定のためではなく検討のために行う形が実務に適しており、4つの項目で整理する方法が扱いやすいと考えられます。
- 設計: 仕組みがどのように設計されているか
- 運用: 実際にどのように運用されているか
- 効果: その結果として何が検知され、何が改善されたか
- 残存リスク: 統制を講じたうえで、経営陣が受容しているリスクは何か
この4項目のうち、形式的な確認で埋まるのは設計の欄までです。運用・効果・残存リスクの3欄を事実で埋められるかどうかが目安になり、○△×の適合判定で終わらせずリスク許容度と残存リスクを言語化することが要点です。
コーポレートガバナンス報告書だけを先に修正しない
改訂対応で順序を誤りやすいのが、コーポレートガバナンス報告書の記載を先に整えてしまう進め方です。開示文書を先に作成すると、記載に合わせて現状を正当化する内容になりやすくなります。
順序としては、次の流れが想定されます。
- 改訂の趣旨を理解する
- 自社にとっての重要論点を決定する
- 実態と、それを裏づける証拠を確認する
- 取締役会で議論する
- 必要な改善を行う
- 実態に基づいてコーポレートガバナンス報告書を更新する
影響が大きい会社と対応期限。コーポレートガバナンス報告書は2027年7月末まで
対象と提出期限
改訂版コードの対象は上場会社です。期限は、別紙3 の「Ⅲ.改訂版コードの適用について」が次のように定めています。
上場会社は、遅くとも2027年7月末日までに、改訂版コードに関する事項について記載したコーポレートガバナンス報告書を提出する必要がある。
公表日を対応期限と読み替えないよう注意が必要ですが、逆算すると、実態の確認と取締役会での議論、改善に充てられる期間はそれほど長くありません。
特に影響が大きい会社
影響が大きくなりやすいのは、次のような状態にある会社です。
- コーポレートガバナンス報告書の記載がひな型的で実態の記述が少ない
- 取締役会の審議が承認・報告事項に偏っている
- 内部監査部門の報告経路が弱い、または経営陣経由
- 海外・買収子会社が多くグループ全体を把握しにくい
- 内部通報の運用実態を取締役会が把握していない
非上場会社への影響
非上場会社にコードが直接適用されるわけではありませんが、上場会社の子会社や重要取引先は、グループ・取引先管理の一環で間接的な影響を受ける場合があります。コードは上場後に適用されるものであり、IPO準備段階で直接適用されるわけではありませんが、上場審査や上場後の対応を見据えて体制を整える必要があります。
実務対応の4段階
2027年7月末までの対応は、次の4段階で進める形が想定されます。
- 影響分析: 4論点に照らし、現在の体制と運用状況を把握します。
- 実効性の評価: 設計・運用・効果・残存リスクの4項目で実態を評価します。
- 改善と取締役会での審議: 課題の優先順位を決め、取締役会で審議します。
- 実態に基づく開示: 議論と改善の結果を報告書に反映します。
コーポレートガバナンスコード改訂に関するよくある質問
Q. 原則の数が減ったので、上場会社の対応負担も減るのでしょうか。
改訂版コードの序文 (第12項) は、プリンシプル化・スリム化が対応コスト・開示負担の軽減のみを意図するものではないとしています。負担の総量よりも、「項目の確認」から「実質の説明」へと負担の形が移ると考えられます。
Q. 解釈指針はコンプライ・オア・エクスプレインの対象外なので、読まなくてよいのでしょうか。
対象外ですが、序文 (第9項) は解釈指針を原則の背景となる考え方やベストプラクティスを示すものと位置づけ、参照しつつの対応を期待しています。異なる方法を採る場合は、原則の趣旨・精神に沿うことを説明できる状態が必要です。
Q. サイバーセキュリティや経済安全保障のチェック項目を追加すれば、対応したことになるのでしょうか。
原則4-4 の解釈指針は、これらを考慮事項に「含まれ得る」ものとして例示しています。項目の追加自体が対応になるのではなく、自社にとってどのリスクが重要かを判断し、適切に対応できているかが問われます。
Q. 全社的リスク管理は、内部監査部門が主導すればよいのでしょうか。
原則4-4 は取締役会が内部監査部門を活用しつつ監督することを求めており、内部監査部門が枠組みの作成主体になると独立した検証機能が失われます。
Q. 規程・委員会・年1回の報告があれば「対応済み」と説明できるのでしょうか。
原則4-4 が求めるのは体制の存在ではなく運用状況の監督であるため、体制の存在のみで説明を尽くしたことにはなりにくいと考えられます。運用の実態と、そこから何が把握・改善されたかを示せるかが要点です。
Q. 今回の改訂で、独立社外取締役の過半数選任が新たに義務化されたのでしょうか。
新たに求められるようになったわけではありません。前提として、コードは法令ではなく、実施しない場合に理由を説明するコンプライ・オア・エクスプレインを前提とする規範です。そのうえで原則4-10 は「プライム市場上場会社は……独立社外取締役を少なくとも3分の1(その他の市場の上場会社においては2名)以上選任すべきである」としています。「過半数」が示されるのは「支配株主を有するプライム市場上場会社は、取締役会において支配株主からの独立性を有する独立社外取締役を少なくとも過半数(支配株主を有するその他の市場の上場会社においては3分の1以上)選任すべきである」という部分で、支配株主を有する会社に係る要求です。別紙3 も、一般のプライム市場上場企業については「いずれはグローバルに活躍するプライム市場上場企業について、過半数の独立社外取締役が選任されるべきとの指摘がある」と記載するにとどまっています。
まとめ。改訂後に問われる「運用状況の監督」
コーポレートガバナンスコードの2026年改訂について、本記事で扱った4論点の要点は次のとおりです。
- 内部統制・全社的リスク管理は原則4-4 の本文へ格上げされ、内部監査部門の直接報告と内部通報の具体的規律は解釈指針へ移りました。方向の異なる移動が同時に起きています。
- 解釈指針はコンプライ・オア・エクスプレインの対象ではありませんが、序文 (第12項) は、移管された記載の重要性が失われたと考えることは適切ではないとしています。
- 期限は、遅くとも2027年7月末日までのコーポレートガバナンス報告書の提出です。
そのうえで残るのが、原則4-4 が求める「運用状況の監督」をどう担保するかという問題です。年1回の自己評価と規程のレビューだけで体制が実際に機能しているかを取締役会が判断できるかが、改訂後の実務の分岐点になります。
その手段の一つが、業務内のコミュニケーションの継続的な解析です。NaLaLys では、メール・チャット・音声を解析して異常兆候を把握するコンプライアンス監視SaaSを提供し、年次点検では見えにくい運用実態を取締役会に示す情報源としています。内部通報についても、受付後の対応に加えて通報しやすさ自体を設計する方向があり、NaLaLys のAI通報窓口は弁護士窓口や社内窓口を置き換えず、既存の窓口と併用する経路として位置づけています。
改訂後のコードに対して問われているのは、新しい項目をいくつ確認したかではありません。自社にとって重要なリスクをどう捉え、適切なリスクテイクと取締役会の監督にどう結び付けているかを説明できるかどうかです。
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