2025/09/14

解説

急増する上場企業の会計不正!2025年版最新動向と、AIで防ぐこれからのコンプライアンス戦略

急増する上場企業の会計不正!2025年版最新動向と、AIで防ぐこれからのコンプライアンス戦略

上場企業における会計不正は、企業価値を大きく損ねるだけでなく、社会的な信頼をも失墜させる重大なリスクです。企業の経営に携わる皆様は、この見えない脅威に対し、万全の体制を築けているでしょうか?

日本公認会計士協会が公表した最新レポート「上場会社等における会計不正の動向(2025年版)」からは、会計不正の実態と、その深刻化するトレンドが見えてきます。

本記事では、この最新データに基づき、上場企業が直面する会計不正の最新動向とリスクを解説します。そして、従来の対策では見過ごされがちだった「共謀による不正」や「経営者による不正」に対し、AIを活用した先進的なアプローチがどのように有効であるかを探ります。

データで見る上場会社等における会計不正の最新動向(2025年版)

会計不正の公表件数は年々増加の一途

レポートによると、2021年3月期から2025年3月期にかけて、会計不正の発覚を公表した上場会社は計196社に上り、その数は年々増加しています。特に深刻なのはその増加ペースです。「2021年3月期」には26社だったものが、「2025年-3月期」には56社と、この5年間で倍以上に増えているのです。この現実は、会計不正がもはや対岸の火事ではなく、すべての上場企業にとって喫緊の課題であることを示しています。

会計不正の二大類型:「粉飾決算」と「資産の流用」

会計不正は、主に「粉飾決算」と「資産の流用」に分類されます。

粉飾決算

企業の業績や収益力を偽るために、財務諸表に意図的な虚偽表示を行うことです。一般的に影響額が多額になる傾向があり、2025年3月期においては、公表された会計不正のうち76.6%が粉飾決算でした。

その具体的な手口としては「架空仕入・原価操作」や「売上の過大計上」が多く見られます。特に2025年3月期には、「収益関連(売上の過大計上、循環取引、工事進行基準など)」の会計不正が全体の32.2%を占めています。

(粉飾決算事例) ――A社の海外子会社B社では、機械装置を顧客に販売しており、装置の据付作業及び顧客による検収が完了した時点で売上を計上するルール(据付基準)を採用していた。そのため、顧客に装置を納品した後も顧客の都合でしばらく据付作業が実施できない場合には、B社は売上を認識できず長期在庫扱いとなってしまうことから、目標の売上予算を達成できない状況が生じてしまうおそれがあった。B社の営業担当者は、目標売上達成のために、複数取引で据付基準を遵守せず、顧客へ装置を引き渡した時点で売上を先行計上できるようにルールの拡大解釈等を行っていた。この結果、B社の2023年3月期の売上高は約60億円過大に計上されていた。

資産の流用

経営者や従業員等による着服行為です。「現金の横領」や「第三者の会社を介在した資金流出」が主な手口です。これらの不正は、比較的少額なケースが多いものの、発覚を逃れるために証憑書類の偽造など巧妙な隠蔽工作を伴うことが少なくありません。

(現金の横領事例)――C社の連結子会社の従業員Ⅹ氏は経理業務を単独で担当している立場を利用し、2023年から2024年にかけて、同社の口座から自身の口座等に不正に送金し、計約2億円を業務上横領していた。インターネットバンキングでの不正送金において、送金先を当該子会社の取引先であるように見せかけるため、送金先名称を書き換えるなどして隠ぺいを図った。
また、Ⅹ氏は会計帳簿の記帳において、不正が容易に発覚しないよう1カ月間の取引をまとめて月末日付で記帳し、自己の不正な着服による出金を、例えば総合振込に係る債務勘定の減少に含めてその内訳を分かりにくいものにするとともに、資産及び費用の架空計上を行うなどの偽装工作を繰り返した。

不正が多発する業種と上場市場の傾向

不正が多発する傾向は、業種や上場市場ごとにも見られます。業種別に見ると、過去5年間で最も不正が多かったのは「サービス業」で全体の23.5%を占め、次いで「卸売業」(13.8%)、「建設業」(10.7%)、「情報・通信業」(10.2%)と続きます。また、上場市場別では、東証の新市場区分後(2022年3月期から2025年3月期まで)のデータで、プライム市場における不正発生企業の割合が、上場会社数全体に比べて3.6ポイント高くなっています。

(サービス業の会計不正)――Ⅾ社は加盟店に対して水回りの修理サービスに係る代行業務を提供している。Ⅾ社の従業員は、同社の代表取締役社長の損益調整の指示により、担当した顧客数を水増ししたうえで特定の加盟店(E社)に請求を行うことで売上高を2022年度から2024年度にかけて約50百万円過大計上していた。
さらに、売上高の過大計上に対する回収資金を捻出するため、D社の代表取締役社長がD社に対して個人的に資金を貸し付け、E社から支払いがあったように偽装していた。

不正の発覚経路と、見えにくい「共謀」による不正

会計不正がどのようにして発覚するのか、その経路を見ると「当局の調査等」が最も多く、次いで「内部統制等」、「内部通報」と続きます。不正に関与するのは誰かという点では、役員や管理職が主体となるケースも少なくありません。特に近年深刻なトレンドとして、「内部共謀」による不正発覚件数が増加しており、役員や管理職が外部の協力者や社内の部下と手を組んで不正を実行するケースが多く見られます。このように「共謀」や、経営者が意図的に内部統制を無視・無効化する「オーバーライド」が行われる場合、不正の発見は著しく困難になります。これは内部統制が持つ「固有の限界」であり、従来の監査やチェック体制だけでは防ぎきれない領域と言えるでしょう。

海外子会社における不正の増加と地域特性

不正が発生する場所として、「海外子会社」における発覚件数が増加傾向にあります。地域別に見ると、特にアジア地域での発生が目立ち、なかでも中国が全体の約半数(46%)を占め、突出しています。これは日系企業の進出数の多さも一因と考えられますが、ガバナンスの目が届きにくい海外拠点でのリスク管理の重要性が浮き彫りになった結果と言えるでしょう。

(海外子会社の会計不正事例)――2024 年にH社の中国に所在する海外連結子会社で、財務部を管掌する副総経理が月次財務資料を分析中に予算と実績の著しい乖離を発見した。社内調査の結果、財務部の会計チーム長であるZ氏が少なくとも約2000 万人民元(約4 億1700 万円)の会社資金を不正に着服していたことが判明した。
Z氏は2011年から2024年までの約13年間、自らが管理するH社の小切手を用いて銀行口座から預金を引き出し、私的に流用していた。手口は、引き出した預金の全部又は一部を着服し、これを隠蔽するために輸入関税、原材料の支払、増値税、他人の経費精算等の証憑をコピー又は流用するなどして、正規の費用支払があったかのように偽装していた。また、現金についても同様に偽装を行い、着服を繰り返していたことが確認された。銀行取引明細書のZ氏以外の者によるチェックは、行われていなかった。

上場企業が会計不正にどう対処すべきか:実効性のある対策とAIの可能性

従来の内部統制の限界を認識する

会計不正が発覚した企業のうち、過去5年間で73社が「過年度の内部統制報告書」の訂正報告を行っています。これは、構築したはずの内部統制システムが、実際には有効に機能していなかったことを意味します。前述の通り、特に「経営者による内部統制の無効化」や「複数の担当者による共謀」は、内部統制が機能しづらい「固有の限界」として認識する必要があります。

外部専門家を活用した不正調査体制の重要性

不正が発覚した際の調査体制に目を向けると、粉飾決算の調査では、「外部専門家のみ」による調査体制が55.6%と過半数を占めています。また、役員が関与する不正の場合、監査法人系や会計事務所といった公認会計士が組織的に調査に関与する傾向が強いことがわかっています。これは、深刻な不正の解明には、客観性と高度な専門性を持つ外部の力が不可欠であることを示唆しています。

※不正調査の流れはこちらのコラムを参照ください→企業不祥事、その時どう動く?発覚から再発防止まで全フローを徹底解説

新たな切り札:AIを活用した不正検知の有効性

従来の内部統制や監査では発見が困難な「共謀による不正」や「経営者不正」。その兆候を、AIを活用したメールレビューによって早期に検知できる可能性があります。

AIが不正検知に強い理由:

  • 「海外子会社での不正、現金の横領、架空取引」など、多岐にわたる不正の手口において、その計画や実行、隠蔽の痕跡は、従業員間のメールやチャットのやり取りに隠されている場合が非常に多いです。
  • AIは、人間が手作業では見落としがちな膨大なテキストデータから、不審なキーワードの組み合わせや特異なパターン、通常とは異なるコミュニケーションを自動で抽出します。これにより、法務・コンプライアンス担当者の調査対象を効率的に絞り込み、不正の兆候をいち早く「見える化」することが可能です。
  • 特に「共謀」においては、複数の人物間のやり取りから不正計画や隠蔽工作の証拠をAIが効率的に発見し、従来の内部統制の限界を補完する新たな防御壁となり得ます。

AIを活用することで、不正の早期発見・早期対応を可能にし、企業が受ける損害を最小限に抑えることに貢献できます。

まとめ:不正リスクを乗り越え、持続可能な企業成長のために

上場企業における会計不正は、件数が増加し、手口も巧妙化・複雑化しています。特に「共謀による不正」や「海外子会社での不正の増加」は、従来の対策だけでは十分に対処できない現実を示しています。

これからのコンプライアンス戦略では、強固な内部統制の構築に加え、AIなどの先進技術を積極的に導入し、潜在的な不正リスクを『見える化』し、早期に発見・対応できる体制を構築することが不可欠です。

弊社のAIを活用したメールレビューによる不正検知SaaSサービスは、貴社の不正リスク管理体制を劇的に強化し、見えない脅威から企業価値を守り、持続可能な成長をサポートします。会計不正の未然防止、早期発見にご関心のある経営層、法務・コンプライアンス担当者の皆様は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。

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