2025/07/08

不正調査

企業不祥事、その時どう動く?発覚から再発防止まで全フローを徹底解説

企業不祥事、その時どう動く?発覚から再発防止まで全フローを徹底解説

「自社に限って不祥事など起こらない」と思ってはいても、そのリスクをゼロにすることはできません。ひとたび不祥事が発生すれば、企業の信頼は瞬く間に失墜し、事業継続すら危ぶまれる事態に発展しかねません。法務・コンプライアンスご担当者様や経営層の皆様の中には、「万が一の際、何から手をつければ良いのか」「全体像が分からず漠然とした不安がある」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

本記事では、企業で不祥事が発覚した際に、どのようなプロセスで事態が進行するのか、その全体像を体系的に解説します。発覚のきっかけから初動対応、調査、そして信頼回復に向けた再発防止策まで、一連の流れを把握することで、有事への備えを万全にし、企業価値を守るための具体的な一歩を踏み出すことができます。

企業で発生する不祥事の類型

企業活動において発生しうる不祥事は、会計不正から品質偽装、ハラスメントまで多岐にわたります。これらの多様な不正の根底には、共通のメカニズムが存在すると言われています。それが、米国の犯罪学者ドナルド・R・クレッシーが提唱した「不正のトライアングル」です。不正行為は「①機会」「②動機」「③正当化」という3つの要素がすべて揃ったときに発生するとされています。

  • ①機会: 内部統制の不備や監視体制の甘さなど、不正行為が「できてしまう」客観的な環境
  • ②動機: 個人的な金銭問題や過大な業績プレッシャーなど、不正に走る「きっかけ」となる主観的な事情
  • ③正当化: 「これは会社のためだ」「誰も損をしない」など、不正行為を自分の中で「納得させてしまう」身勝手な理由付け

コンプライアンス体制を構築する上では、これらの3つの要素を理解し、それぞれをいかに潰していくかを考えることが極めて重要です。本章では、まず代表的な不祥事の類型を概観し、どのような不正リスクが存在するのかを具体的に見ていきましょう。

会計不正・粉飾決算

企業の財務報告の信頼性を損なう行為であり、投資家や市場に甚大な影響を与えます。架空売上の計上、循環取引、損失隠しなどがこれに該当します。過去の事例では、経営陣の「成長拡大への異常な固執」が動機となり、組織的な不正が行われたケースも少なくありません。

品質不正

製品の検査データ改ざん、検査の未実施、製法の偽装など、製品の品質や安全性に関わる不正です。背景には、納期やコストのプレッシャー、コンプライアンス意識の欠如、チェック体制の形骸化といった組織的な問題が潜んでいることが多く、大規模な製品回収やブランドイメージの毀損に直結します。

競争法違反(独占禁止法違反)

カルテルや入札談合など、公正かつ自由な競争を阻害する行為です。事業者間で価格や受注者を事前に取り決めることで、市場原理を歪め、消費者に不利益をもたらします。当事者間の「基本合意」が成立した時点で違反と見なされる、極めて厳しい規制対象です。

贈収賄違反

特に海外事業においてリスクが高まる不祥事です。公務員などに対して、事業上の便宜を図ってもらう目的で金銭や接待などを提供する行為を指します。「現地の慣習だから」「追徴額を減額するため」といった安易な正当化が、深刻な法的制裁を招くことがあります。

インサイダー取引

会社の内部情報に接する役職員などが、その情報が公表される前に、その会社の株式等を売買して利益を得る行為です。情報管理体制の不備が大きな要因となり得ます。

パワハラなどのハラスメント

職場内の優越的な関係を背景に、労働者の就業環境を害する行為です。人格を否定するような叱責や過大な要求、セクシュアルハラスメントなどが含まれます。個人の問題と捉えられがちですが、その背景には組織文化や労働時間管理の不備といった、企業全体の問題が隠れているケースが多く見られます。

不祥事が発覚する経路

では、企業内で発生した不祥事は、どのようなきっかけで明らかになるのでしょうか。その発覚経路は多岐にわたり、企業の自浄作用が機能した結果である内部からの発見もあれば、社会全体の監視の目が厳しくなる中で、外部からの指摘によって表面化するケースも少なくありません。これらの経路を分析することは、自社のコンプライアンス体制の有効性や脆弱性を客観的に評価し、より実効性のある不正の早期発見メカニズムを構築するための重要な示唆を与えてくれます。本章では、その発覚経路を大きく「内部」と「外部」に分け、それぞれの具体的なケースを見ていきます。

内部からの発覚

内部通報制度

従業員が社内の不正を専門窓口に通報する制度です。改正公益通報者保護法により、一定規模の事業者には体制整備が義務付けられており、不祥事の早期発見において最も重要な機能の一つです。通報者が不利益な扱いを受けないよう保護することが、制度の実効性を高める鍵となります。

内部監査

各部門の業務プロセスが適切に運用されているかを定期的にチェックする内部監査は、不正の端緒を発見する重要な機会です。監査機能が形骸化していると、不正を見過ごし、問題が深刻化する原因となります。

内部統制による検出

業務フローに組み込まれたチェック機能やシステム上のアラートなど、日常業務の内部統制プロセスを通じて不正が検知されるケースです。例えば、本来は承認権限のない従業員が高額な取引を申請した際にシステムが自動でブロックしたり、特定の取引先への支払が短期間に集中した場合にアラートが作動したりするケースがこれにあたります。

外部からの発覚

外部機関からの指摘

金融機関や取引先、顧客からのクレームや問い合わせが、不正発覚のきっかけとなることがあります。また、税務署や証券取引等監視委員会(SESC)といった監督官庁による検査・調査は、特に会計不正などを明るみに出す大きなきっかけとなります。

監査法人からの指摘

会計監査の過程で、監査法人が不正による重要な虚偽記載のリスクを発見するケースです。特にオリンパス事件以降、監査法人の不正リスク対応は厳格化しており、異常な取引が発見された場合、企業に対して詳細な調査を求めることが増えています。

メディア報道

新聞やテレビといったマスコミによる報道や、近年ではSNSやインターネット上の匿名掲示板への書き込みによって不祥事が表面化するケースが急増しています。情報が瞬時に拡散するため、企業のレピュテーションに与えるダメージは計り知れません。

初動対応

不祥事の端緒を掴んだら、企業は直ちに危機管理の最前線に立たされます。ここから始まる「初動対応」は、まさに企業の危機管理能力そのものが問われる極めて重要なフェーズです。この最初の数時間、数日間での対応の巧拙が、その後のレピュテーションダメージの大きさ、調査の難易度、そして最終的な金銭的・社会的損失の規模を決定づけると言っても過言ではありません。対応が後手に回れば、不正確な情報や憶測が拡散してステークホルダーの不安を煽り、証拠が散逸・隠蔽され、結果として企業が受けるダメージを不必要に拡大させてしまう恐れがあります。迅速かつ的確な初動対応こそが、炎上を最小限に食い止め、信頼回復への道を切り拓くための第一歩となるのです。

情報の収集と状況把握

まずは、現時点で判明している事実(不正の概要、関係者、発生時期、影響範囲など)を迅速かつ正確に収集します。情報が錯綜する中で、対応チームが一元的に情報を集約・管理し、事案の全体像を把握するよう努めることが極めて重要です。

対応チームの組成

事案の性質や規模に応じて、法務、経理、広報、人事、関連事業部門などから成る緊急対応チームを速やかに組成します。経営陣の関与が疑われるような重大な事案では、早期に外部の弁護士や専門家を招聘することも不可欠です。

不正行為の停止と証拠の保全

進行中の不正行為があれば直ちに停止させるとともに、証拠が隠蔽・改ざん・破棄されることを防がなければなりません。関連書類の保全はもちろん、現代の不正調査ではPC、サーバー、メール、チャット履歴といったデジタルデータの保全が不可欠です。デジタル・フォレンジックの専門家による適切な手順での証拠保全が、後の調査の成否を分けます。

メディア・ステークホルダー対応方針の検討

対外的な説明責任を果たすため、広報戦略を策定します。この段階では、不確実な情報をもとに断定的な説明をすることは避け、調査の進捗に応じて段階的に情報を開示するなど、慎重な情報管理が求められます。

調査(事実解明・原因究明)

初動対応によって緊急事態をコントロール下に置くと同時に、事態を根本的に解決するための核心的なフェーズ、すなわち本格的な調査が開始されます。この調査は、単に表面的な事実をなぞるだけのものではありません。不正の全体像(誰が、いつ、どこで、何を、どのように行ったのか)を客観的な証拠に基づいて正確に描き出すとともに、さらに深く掘り下げ、「なぜ、そのような不正行為が起きてしまったのか」という根本原因を徹底的に究明することを目的とします。ここで得られた調査結果の質が、後の再発防止策の実効性を直接左右するため、極めて重要なプロセスとなります。

調査体制

調査の客観性・独立性を担保するため、事案に応じて適切な調査体制を構築します。

社内調査

比較的軽微で、経営陣の関与が疑われない事案の調査の場合にこの形態がとられます。

特別調査委員会

経営陣の関与はないが、客観性を確保したい大規模な不正。社外専門家の協力を得て実施します。

第三者調査委員会

経営陣の関与が強く疑われる重大な事案に多く採用されます。企業から完全に独立した弁護士や公認会計士などの外部専門家のみで構成され、最も客観性が高い調査体制です。

参考:企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン

調査の目的

調査は、単に「誰が何をしたか」を明らかにするだけでは不十分です。以下の点を解明することを目的とします。

不正の事実関係

具体的な手口、期間、関与者、被害の範囲や規模。

発生原因

なぜ不正が起きたのか。「不正のトライアングル」に基づき、組織の構造的・文化的な問題まで踏み込んで分析します。

社内外に及ぼす影響

財務的な影響、顧客や取引先への影響、従業員への影響など。

具体的な再発防止策

調査で明らかになった原因を根本的に取り除くための実効性のある対策。

件外調査

他の部署や拠点でも同様の不正が行われていないかの確認。

調査手法

事実を解明するために、様々な手法が用いられます。

書面等のレビュー

議事録、稟議書、契約書、会計帳簿などの関連資料を精査します。

デジタル・フォレンジック

削除されたデータを含むPCやサーバー内の電子データを解析し、不正の痕跡を追跡します。隠蔽工作を暴き、客観的な証拠を確保する上で極めて有効な手法です。

インタビューの実施

不正の当事者、関係者、目撃者など、幅広い対象者からヒアリングを行います。口裏合わせを防ぐため、ヒアリングの順序や場所は慎重に計画されます。

アンケート調査

不正が広範囲に及ぶ可能性がある場合に、全社的な実態把握のために実施されることがあります。

調査期間の制約

不正調査は、無期限に時間をかけて行えるわけではありません。様々な外部からの圧力により、厳しい時間的制約の中で進めることを余儀なくされます。特に上場企業の場合、決算発表や有価証券報告書の提出といった法定開示の期限は待ってくれません。会計不正などの調査が長引き、期限までに財務諸表を確定できなければ、上場廃止という最悪の事態を招く恐れすらあります。

さらに、証券取引等監視委員会や公正取引委員会といった監督官庁から、特定の期日までの報告を厳しく求められるケースも少なくありません。これらの外的要因に加え、株主や取引先、顧客といったステークホルダーからの「一刻も早く全体像を明らかにしてほしい」というプレッシャーも日に日に高まります。こうした状況下で、調査チームは「スピード」と「調査の質」という、時に相反する要求の板挟みになります。拙速な調査で根本原因の究明を怠れば、社会からの信頼を到底得られず、より深刻な二次被害を生みかねません。この困難なバランスをいかに取るかが、調査における極めて大きな課題となります。

報告と公表

困難な調査を終えたとしても、それだけで企業の責任が果たされたわけではありません。むしろ、ここからが社会からの信頼を回復するための正念場です。調査によって明らかになった事実は、たとえ自社にとって不都合な内容であったとしても、包み隠さず、しかるべき形で社内外のステークホルダーに報告・公表されなければなりません。この「報告と公表」のフェーズは、企業の透明性と誠実さを示す絶好の機会であると同時に、対応を誤れば「隠蔽体質」との烙印を押され、さらなる信頼失墜を招きかねない、極めて繊細なプロセスです。

調査報告書の作成

調査の目的、範囲、プロセス、認定した事実、原因分析、そして再発防止策などをまとめた調査報告書を作成します。第三者委員会による報告書は、その独立性を担保するため、原則として企業への事前開示なしに公表されることもあります。

適時開示・公表

上場企業は、投資家の判断に重要な影響を及ぼす事実が判明した場合、証券取引所のルールに基づき、速やかに情報を開示する義務(適時開示)があります。記者会見の実施や自社ウェブサイトでの公表などを通じて、株主や顧客、社会全体に対して説明責任を果たします。

監督官庁への報告

事案の内容に応じて、金融庁、証券取引等監視委員会、公正取引委員会といった監督官庁への報告が求められます。報告の遅延や内容の不備は、さらなる行政処分を招く可能性があります。

再発防止策の策定と実施

調査と報告は、不祥事対応の終わりではありません。むしろ、信頼回復に向けた新たなスタートです。調査で明らかになった根本原因を断ち切るため、実効性のある再発防止策を策定し、組織に根付かせることが最も重要です。

内部統制の強化

内部統制は「統制環境」「リスクの評価と対応」「統制活動」「情報と伝達」「モニタリング」「ITへの対応」の6つの基本的要素から成り立っており、これらを体系的に見直すことが求められます。

統制環境の整備

経営トップが「不正を絶対に許さない」という強い決意を繰り返し発信し、企業理念や倫理綱領を全役職員に浸透させます。

リスクの評価と対応

業務プロセスに潜む不正リスクを定期的に洗い出し、評価し、そのリスクを低減するための対応策を業務フローに組み込みます。

統制活動の改善

権限の分散、相互牽制、二重チェック機能の強化など、不正が起こりにくい具体的な業務ルールを整備・徹底します。

情報と伝達の強化

内部通報制度を形骸化させず、誰もが安心して利用できるよう周知・改善します。社外からの声(お客様相談窓口など)を真摯に受け止める体制も重要です。

モニタリングの強化

内部監査を厳格化し、統制活動がルール通りに遵守されているかを継続的に検証します。

ITへの対応

業務プロセスの自動化やアクセス権限の厳格な管理により、人為的な不正や隠蔽工作を困難にします。AIを活用したモニタリングなども有効な手段となり得ます。

人事上の措置

再発防止策の一環として、不正に関与した者への厳正な処分は不可欠です。これは、単なる処罰に留まらず、「不正を許さない」という企業の断固たる姿勢を社内外に明確に示すための重要なプロセスです。処分の根拠となるのは、あらかじめ定められた就業規則です。調査によって認定された客観的な事実に基づき、行為の悪質性、会社に与えた損害の大きさ、関与者の役職や意図などを総合的に勘案し、懲戒権の濫用とならないよう、相当性のある処分を決定する必要があります。また、処分対象者には弁明の機会を十分に与えるなど、適正な手続きを踏むことが極めて重要です。具体的な処分内容は、譴責、減給、出勤停止から、最も重い懲戒解雇まで多岐にわたります。これらの厳正な措置は、組織の規律を回復させると同時に、他の従業員に対する強い抑止力となり、コンプライアンス遵守の意識を再徹底させる効果を持ちます。さらに、不正行為者本人だけでなく、その監督責任者に対しても、管理不行き届きを理由とした処分が検討されるべき場合もあります。

教育・研修

内部統制システムや厳格な人事措置が不正の「機会」を減らし、「動機」を抑えるためのハード面の対策だとすれば、教育・研修は役職員の心に直接働きかけ、不正の「正当化」を許さない土壌を育むソフト面の要です。抽象的なルールを羅列するだけでは、従業員の心には響きません。自社や他社で実際に起きた不祥事を具体的なケーススタディとして取り上げ、「もし自分がその立場だったらどう判断し、どう行動すべきか」を考えさせることで、コンプライアンス違反を単なる「他人事」ではなく、自らの業務に潜むリアルなリスクとして「自分ごと」化させることが極めて効果的です。

研修は全社一律ではなく、役職や職種に応じて内容を最適化する必要があります。新入社員には基本的な企業倫理や行動規範を、管理職には部下からの相談への対応やハラスメント防止の監督責任を、営業部門には独占禁止法や贈収賄防止に関する知識を、といった具合に、それぞれの立場に即したリスクと責任を具体的に教育します。一度研修を実施して終わりではなく、定期的なフォローアップ研修や、法改正・新たなリスク動向を踏まえた情報提供を継続的に行うことで、意識を風化させないことが重要です。

法的・社会的制裁と影響

これまで見てきた対応プロセスをいかに適切に進めたとしても、一度起きてしまった不祥事が企業に与える影響をゼロにすることはできません。不祥事を起こした企業には、法律に基づいた厳格なペナルティである「法的制裁」と、社会からの信頼失墜という目に見えない、しかし極めて深刻な「社会的制裁」という、二つの重い十字架が待ち受けています。これらは単なる一時的なコストや損失ではなく、企業の存続そのものを揺るがしかねない重大な経営リスクです。

法的制裁

行政処分

監督官庁(金融庁、公正取引委員会、消費者庁など)が、法令違反に対して直接的に科す処分です。最も直接的なのは、数億円から数十億円にものぼることもある「課徴金」の納付命令で、企業の財務に大きな打撃を与えます。さらに、事業の継続そのものを脅かす「業務停止命令」や、事業を行うために不可欠な「許認可の取り消し」といった、極めて重い処分が下される可能性もあります。これらは、企業の事業活動を根底から覆す力を持っています。

刑事責任

不正行為が特に悪質で、詐欺や特別背任、贈収賄といった犯罪に該当する場合、検察による捜査を経て刑事裁判に至ることがあります。その結果、不正を主導した役員や従業員個人が懲役刑や罰金刑に処せられるだけでなく、法人自身も「両罰規定」に基づき、高額な罰金刑を科される可能性があります。「知らなかった」では済まされない、個人と組織双方の責任が厳しく問われます。

民事責任

不祥事によって損害を被ったステークホルダーから、損害賠償を求める訴訟を提起されるリスクです。代表的なものに、株価下落によって損害を受けた株主が、会社や役員に対して賠償を求める「株主代表訴訟」があります。また、欠陥製品によって被害を受けた消費者や、不正な取引によって損失を被った取引先など、あらゆる関係者が原告となり得ます。賠償額が巨額になることも少なくなく、企業の財務基盤を大きく揺るがす要因となります。

社会的制裁

法律による罰則以上に、企業の存続を静かに、しかし確実に蝕んでいくのが「社会的制裁」です。これは、社会からの「信頼」という、企業活動の根幹をなす無形の資産を失うことを意味します。一度失った信頼を回復するのは極めて困難であり、その影響は以下のように多岐にわたります。

レピュテーション(企業評判)の毀損とブランド価値の暴落

不祥事は、長年かけて築き上げてきた企業のブランドイメージを一瞬で地に落とします。「あの会社は信用できない」というネガティブな評判(レピュテーション)は、SNSなどを通じて瞬時に拡散し、消費者や社会に深く刻み込まれます。これは、社会からの信頼という、事業活動に不可欠な基盤そのものを失うことを意味します。

顧客・取引先の離反

消費者は、不正を犯した企業の商品やサービスを敬遠し、不買運動に発展することもあります。また、BtoB取引においても、取引先はコンプライアンス違反企業との関係を続けることによる自社への評判リスクや、将来の事業継続性への不安から、取引の停止や契約の解除を検討します。主要な顧客やサプライヤーを失うことは、事業の根幹を揺るがす深刻な事態です。

金融市場からの締め出しと資金調達の困難化

不祥事の発覚は、株価の暴落という形で即座に市場の厳しい評価を受けます。投資家は将来のリスクを嫌気し、株式を売却します。さらに、企業の信用格付けが引き下げられ、金融機関からの融資が困難になったり、社債発行の条件が著しく不利になったりするなど、事業運営に不可欠な資金調達の道が狭められていきます。

人材の流出と採用難

企業の理念や将来性に共感して働いていた優秀な従業員は、会社への失望や将来への不安から、次々と組織を去っていきます。同時に、企業の悪評は採用市場にも広がり、新たな人材を確保することも極めて困難になります。人材という最も重要な経営資源を失うことは、企業の競争力を長期的に削いでいくことになります。

これらの影響は相互に連鎖し、負のスパイラルを生み出します。売上の急減が財務状況を悪化させ、それがさらなる信用不安を呼び、人材流出を加速させる…という悪循環に陥り、最終的には、法的制裁がなくとも、市場からの退場、すなわち倒産や事業解体に追い込まれるケースも決して珍しくありません。

まとめ

企業不祥事への対応は、発覚の瞬間から、初動対応、調査、報告、そして再発防止策の実行まで、一貫性のある多岐にわたるプロセスを迅速かつ適切に進めることが求められます。特に、ダメージを最小限に食い止める「初動対応」、客観的な「調査による原因究明」、そして未来の不正を防ぐ「実効性のある再発防止策」は、企業の再生に不可欠な三本柱と言えるでしょう。

不祥事は、どの企業にとっても起こりうるリスクです。しかし、そのリスクに真摯に向き合い、万が一の事態に備えておくこと、そして不正を許さない強固な組織文化と内部統制システムを構築しておくことは、単なる「守り」のコストではありません。それは、企業の持続的な成長と社会からの信頼を勝ち得るための、最も重要な「攻め」の投資なのです。

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