内部監査・モニタリング
公開:2026/09/23
三様監査とは。監査役等・会計監査人・内部監査の違いと連携の設計
三様監査とは、監査役等監査・会計監査人監査・内部監査という3つの監査を指します。監査役等・会計監査人・内部監査部門がそろい、三者の会合が年間日程に組み込まれていても、連携が実質を伴っている手応えが得られない、という状態は起こり得ます。三様監査の実効性は、3者がそろっていることでは決まりません。決めるのは、3者のあいだで情報と依頼が往復する仕組みがあるかどうかです。 本記事では、既に三様監査を運用している組織を対象に、連携の質を点検する観点を解説します。押さえておきたいのは次の4点です。
- 監査役等・会計監査人・内部監査の目的・権限・独立性の違い
- 会社法や監査実務が既に用意している、三者の法定の接点
- 連携が形骸化していく4つの構造 (場・基準・周期・誘因)
- 手元の記録で兆候を確かめる観点と、実効的な連携をつくる設計
目次
三様監査とは。監査役等・会計監査人・内部監査の役割の違い
三様監査とは、監査役等監査・会計監査人監査・内部監査という3つの監査の総称です。3者は「誰に対して責任を負い、何を、どの権限で見るのか」がいずれも異なっており、この違いが後半で扱う連携の設計の前提になります。
三様監査とは — 3つの監査の全体像
「三様監査」は、会社法や金融商品取引法が定める法令上の用語ではありません。3つの監査が並行して行われている状態を指す、実務上の呼称です。
一体的な法定制度ではないため、連携の具体的な運用は各社が設計する必要があります。
3者の位置づけを1枚に整理すると次のとおりです (上場会社は、表の会計監査人監査とは別に、金融商品取引法上の監査証明も受けます)。
| 観点 | 監査役等監査 | 会計監査人監査 | 内部監査 |
|---|---|---|---|
| 目的 | 取締役の職務執行が適法・適正に行われているかの監査 | 計算書類・財務諸表が適正に表示されているかについての意見表明 | 内部統制や業務の有効性・効率性を検証し、経営に改善を提言する |
| 法的根拠 | 会社法 | 会社法 | 法令上の直接の設置義務はなく、上場会社では実務上の前提として設置される |
| 実施者 | 監査役/監査等委員/監査委員 (機関設計により異なる) | 公認会計士または監査法人 | 社内に置かれる内部監査部門 |
| 監査領域 | 業務監査・会計監査 | 会計監査 | 業務監査 (会計処理を対象に含める場合もある) |
| 監査報告の宛先 | 取締役等への法定通知を経て、株主総会にも提供 | 監査役等・取締役等への法定通知を経て、株主総会にも提供 | 原則として経営陣。設計により取締役会・監査役等にも報告 |
| 設置根拠・任期 | 任期は原則4年 (会社法第336条第1項) | 大会社等に設置義務 (会社法第328条第1項)。任期は1年で、みなし再任の仕組みがあります (第338条第1項・第2項) | 任意設置のため任期の定めはない |
監査役等と会計監査人の違い — 責任の対象が異なる
両者の違いは監査の巧拙ではなく、意見を述べる対象そのものが違う点にあります。
- 会計監査人 — 対象は財務報告で、相手は最終的に株主・投資家です
- 監査役等 — 対象は取締役の職務執行全般で、法令違反の有無や内部統制システムの整備状況、著しく不当な業務執行の有無まで射程に入ります。会計監査人の監査の方法と結果の相当性を判断することも職務に含まれます
- 呼称の違い — 「監査人」(金融商品取引法に基づく財務諸表監査の主体) と「会計監査人」(会社法上の機関) は別の語で、同一の監査法人が両方を担う場合もありますが制度上は別の監査です
監査役等と内部監査の違い — 権限の根拠と組織上の位置づけ
決定的な違いは、独立性がどこから来ているかです。
- 監査役等 — 会社法上の機関であり、選任・解任の手続き、任期、報酬の決定方法まで法律が定め、独立性は制度によって外側から支えられています
- 内部監査部門 — 執行組織の内部に置かれた機能で、人事・予算・レポートラインは社内設計に委ねられ、独立性は自社の規程と運用によって担保されます
- 対象の切り取り方 — 監査役等は取締役の職務執行という枠、内部監査は年度の監査計画という枠で対象を切り出します。この独立性の源泉の差は、後述する4つ目の構造 (誘因) に直接つながります
三様監査と三線防衛モデルは別の概念
三様監査と三線防衛モデル (現在は3ラインモデルと呼ばれます) は、数が3で揃っているために混同されやすいものの、扱っている対象が異なります。 三様監査は3つの監査主体の関係を指す呼称、三線防衛モデルは事業部門・管理部門・内部監査部門の役割分担でリスク管理体制を捉えるフレームワークです。
「三線監査」という言い方で検索されることもありますが、両者を同じものとして設計すると、会計監査人の位置づけが宙に浮きます。三線防衛モデル側の論点は三線防衛モデルが機能しない3つの罠で扱っているため、本記事では立ち入りません。
なお、監査役会設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社では、監査を担う機関の名称と権限が異なります。本記事では連携の設計に焦点を当てるため、以降は監査役・監査等委員・監査委員をまとめて監査役等と表記し、機関設計ごとの制度差そのものの解説には入りません。
制度が用意している連携の装置
三者の連携は、担当者どうしの関係の良し悪しで決まる話ではありません。会社法上の権限と監査実務上の協議という形で、連携の起点になる装置は既に制度へ組み込まれています。 問題は装置の不在ではなく、装置が年中行事として処理されている点にあります。
監査役等が会計監査人に対して持つ権限
監査役等は会計監査人に対して、人事と報酬に関わる法定の権限を持っています。 制度上、次の3つが代表的な接点です。
- 選任・解任・不再任に関する議案の内容の決定 — 株主総会に提出する会計監査人の選解任議案の内容は、業務執行側ではなく監査役等が決定します (監査役設置会社は会社法第344条、監査等委員会設置会社は第399条の2第3項第2号、指名委員会等設置会社は第404条第2項第2号)
- 報酬等に対する同意 — 会計監査人の報酬等を取締役が定めるにあたっては、監査役等の同意が必要とされています (会社法第399条)
- 一定の事由に該当する場合の解任 — 職務上の義務違反など法定の事由がある場合、監査役等は会計監査人を解任できます (会社法第340条。株主総会の決議による解任は別途、会社法第339条に定められています)
これらの権限は、会計監査人の独立性を監査役等が支える構造をつくるために置かれています。
ところが実務では、これらの手続きが書面の回付だけで完結しがちです。「前年度と同水準の報酬です」という説明を確かめないまま同意すれば、権限は形式として残るだけになります。装置が処理業務になった瞬間に、年1回の対話の機会が消えます。
KAM をめぐる協議が持つ連携機能
監査上の主要な検討事項 (KAM) は、会計監査人が当年度の監査において特に重要と判断した事項を監査報告書に記載する仕組みです (2018年 (平成30年) 7月公表の「監査基準の改訂に関する意見書」により導入され、2021年3月期から適用されています)。KAM が連携装置として働くのは、記載内容の決定過程で会計監査人と監査役等が協議することが前提とされているためです (監査基準 第四「報告基準」)。
この協議は、両者が「今期どこを重く見ているか」を突き合わせる機会になります。両者の重点領域が一致していない場合、そのずれ自体が有用な情報になります。
一方、協議が期末近くに集中し、監査報告書の記載文案の確認だけを求められる運用になると、機能は大きく変わります。文言の調整に議論が閉じると、リスク認識を突き合わせる機会は残りません。
内部監査部門と監査役等をつなぐ報告経路
内部監査部門は執行の指揮命令下に置かれるのが一般的で、監査役等への報告経路は各社の設計に委ねられています。経路を社内規程等で明確にしておくことは、継続的な運用を支える方法の一つです。
コーポレートガバナンス・コードは、内部監査部門が取締役会および監査役会に対しても直接報告を行う仕組みの構築に言及しています (2026年7月改訂版の原則4-14の解釈指針)。ただし求められているのは仕組みの構築であり、頻度や使い方までは規定されていません。規程上の経路が、実際には年に一度も使われない状態も起こり得ます。
次節では、連携が形骸化する構造を4つに分けて整理します。
連携が形骸化する4つの構造
連携の形骸化は、担当者の怠慢や意識の低さから生じるものではありません。実務でそう振る舞わざるを得ない構造が4つあり、いずれも各自が合理的に判断した結果として生じます。 本記事では、この構造を「場・基準・周期・誘因」という4つの層に整理します。それぞれ、自組織のどこに手当てが要るかを切り分ける手がかりになります。
- 場 — 連携が起きる会議体の形式の問題
- 基準 — 何を重要とみなすかという認知の問題
- 周期 — いつ動くかというタイミングの問題
- 誘因 — 情報を出す側の損得の問題
【場】連携の場が報告会になり、依頼と検証が往復しない
三者会合が形骸化する最初の分岐点は、会合が「報告の場」として設計されている点にあります。 議題が各自の監査実施状況の報告で構成され、参加者はそれぞれ自分の担当分を説明して終わる、という進行になりがちです。
こうした進行になりやすいのは、執行側が事務局を担っている場合です。事務局は議題を公平に組む必要があり、結果として「各自から報告をいただく」という中立的な構成に落ち着きます。監査役等・会計監査人・内部監査部門のいずれも、自分の監査結果を説明する立場に置かれます。
説明する立場に立つと、他者に対して依頼する発言は出にくくなります。「この領域はそちらで見ていただけないか」「この点について会計監査人としての見立てを聞きたい」といった発言は、会合の建て付けから外れるためです。
その結果、議事録には「〜について報告があった」という記述だけが残ります。次のような情報は記録に残りません。
- 誰が、何を、いつまでに確認するかという次の行動
- 依頼した事項とその回答状況
- 参加者が感じた懸念や気づきの発言内容
開催実績や出席率、議事録の整備状況そのものには問題がないため、こうした形骸化は指標として表に出てきません。
【基準】三者の「重要性」の基準が違い、どこにも拾われない領域が残る
3者はそれぞれ異なる枠で重要性を判断しており、どの枠にも入らない領域が構造的に生まれます。 会計監査人は財務諸表への影響額という尺度で、内部監査は年度の監査計画で設定したスコープという尺度で、監査役等は取締役の職務執行という尺度で重要性を判断します。
問題は、3つとも自分の枠のなかでは正しく機能している点です。金額的な影響が小さい取引は、会計監査人の判断基準では重要ではありません。当年度の監査計画に入っていない領域は、内部監査にとって当期の対象外です。取締役会に上がってこない現場の運用は、監査役等の視界に入りません。いずれも誤った判断ではありません。
こうして、次のような領域が3つの枠の外側に残ります。
- 金額は小さいが継続している特定取引先との取引
- 内部通報の件数や内容の傾向といった、単独では事案化していない情報
- 規模の小さい子会社や新設拠点での会計処理の運用
- 監査計画の対象外とされた期中の組織変更やシステム更改
さらに、3者がそろっていること自体が新たな前提を生みます。自分の枠から外れる事象について「他の誰かが見ているはずだ」と考える余地が生まれ、3者そろっていることが、かえって空白を見えにくくします。 誰も判断を誤っていないのに空白が残る、という点がこの構造の扱いにくさです。
【周期】連携の周期が監査サイクルに従属し、兆候の鮮度に追いつかない
三者の会合が決算日程に紐づいて設定されている場合、期中に把握した兆候の共有が遅れます。 四半期レビューの前後や期末監査の節目に会合を置くのは、日程を組むうえで自然な選択です。しかし、その周期は会計上の報告サイクルであって、リスクが顕在化する周期ではありません。
周期のずれは、監査計画の策定時期にも現れます。会計監査人の監査計画、内部監査の年度計画、監査役等の監査方針は、それぞれ別のタイミングで固まります。他者の指摘を自分の計画に織り込もうとしても、計画が既に確定していれば反映は翌期以降になります。指摘が共有された時点で、それが当期の監査資源配分に反映しにくく、次期対応になるという状態が生まれます。
指摘事項のフォローアップも同じ問題を抱えます。3者が指摘事項を別々の台帳で管理している場合、次のような状態が起こります。
- 同じ根本原因に由来する指摘が、3つの台帳に別々の表現で載っている
- ある部門の是正が完了したかどうかを、他の2者が把握していない
- 是正の期限が過ぎた指摘について、誰が督促するのかが決まっていない
横断の是正完了状況を持っている主体がいないため、「対応中」のまま滞留している指摘の全体像を誰も見られない状態になります。
【誘因】情報を出す側に不利が生じ、確度が上がるまで抱え込まれる
確度の低い違和感を共有した側が、後から不利な立場に置かれやすい、という非対称があります。 ある懸念を三者の場で口にすれば、その時点で記録が残ります。後日その懸念が事案として顕在化した場合、「気づいていたのになぜ動かなかったのか」という問いは、共有した側にも向かいます。
逆に、確度が固まるまで手元に置いておけば、記録は残りません。事後の説明において、知らなかったことは防御的に働きます。この非対称が、三者間で共有される情報を「確定した指摘事項」だけに絞り込んでいきます。 次のような情報が、共有されないまま個人の手元に留まりやすくなります。
- 確度の低い段階の違和感や気づき
- 裏取りが済んでいない仮説
- 一度は検討したものの結論に至らなかった論点
個々の判断としては合理的であり、誰も規程に違反していません。
内部監査部門から監査役等への報告が、執行側の確認を経る設計になっている場合、非対称はさらに強まります。確度の低い段階の情報は、執行側にとっても扱いに困るものです。「もう少し裏を取ってから」という判断は現場では自然であり、その分だけ共有は遅れます。
監査役等の側にも同種の構造があります。取締役会での発言が記録に残り、かつ取締役の職務執行への評価を含むために、確証がない段階では発言しにくくなる、という力学です。この点は監査役等の「沈黙」はなぜ起きるのかで構造として扱っています。同様の懸念は、他の監査主体にも生じ得ます。誰か1人の姿勢を正しても、状況全体は変わりません。
形骸化の兆候を記録で確かめる8つの観点
連携が形骸化しているかどうかは、印象ではなく記録で確かめられます。必要なのは新しい調査ではなく、まずは手元にある三者協議の議事録・各監査計画・指摘事項の管理台帳の3種類を突き合わせることです。 以下の8つは、前節で整理した4つの構造に沿って、成果物の有無で判定できる形にしてあります。
- 議事録に依頼事項と回答期限の欄があるか — 「報告があった」だけが並ぶ議事録では、次回までに何も進まなくても誰も気づきません。この状態が続くと、開催実績と出席率だけが積み上がり、形骸化そのものは指標として表に出てきません。
- 会合の議題を誰が作成しているかが記録から分かるか — 議題設定が執行側の事務局に固定されていると、監査側から議題を立てる経路が実質的に存在しません。議題の作成者が記録されていないと、経路が固定化しているかどうかを後から検証することもできません。
- 3者いずれの監査対象にも入っていない領域を一覧化できるか — 一覧が作れない場合、空白の有無すら判定できず、空白は発見される機会を持ちません。一覧を作る作業自体が、3者の監査計画を突き合わせる最初の機会にもなります。
- 同じ領域を3者が重複して点検していないかを確認できるか — 重複が可視化されないと、被監査部門の負担だけが増え、監査への協力姿勢が下がります。重複の可視化は、監査手続を相互に利用できないかを検討する材料にもなります。
- 会合日程が決算日程以外の契機でも設定されているか — 日程が決算に完全に従属していると、期中に生じた兆候は次の節目まで滞留します。決算以外の契機で会合が設定されているかどうかは、周期の構造に手当てがあるかを示す指標になります。
- 他者の指摘が自分の次期監査計画に反映された実績が残っているか — 反映の記録がない場合、会合は情報共有にとどまり、監査資源の配分を動かしていません。反映の記録があれば、他者の指摘が実際に自組織の判断を動かした証跡として残ります。
- 確定前の懸念が共有された記録があるか — 議事録に確定事項しか出てこない状態は、誘因の非対称が働いているサインとして読めます。確定前の懸念を記録に残す運用があるかどうかは、共有した側が不利にならない取り決めの有無を映します。
- 内部監査から監査役等への報告が執行を経由しない経路を持っているか — 規程に経路の定めがなければ、報告するかどうかが個人の判断に委ねられ、担当者が交代した時点で途切れます。経路が規程に明記されていれば、担当者の交代後も報告の有無が個人の裁量に左右されません。
これらは年度末の評価ではなく、期中に短時間で確認できる点検として使えます。該当しない項目が複数ある場合は、次節の設計のうち対応する箇所から着手する形が現実的です。
実効的な連携をつくる4つの設計
形骸化の4つの構造には、それぞれ対応する設計があります。いずれも個人の努力や意識づけではなく、会議体の運営ルール・計画策定の手順・社内規程という形で実装できます。 以下では、明日から着手できる粒度で整理します。
連携会議を「報告の場」から「依頼と回答の場」に組み替える
場の構造への手当ては、会合の設計を変えることから始まります。中心になるのは、議題の所有者を監査役等側に移す方法です。 事務局機能を執行側の部門が担う場合でも、議題の確定権限を監査役等に置けば、会合の性格は変わります。
具体的には、次の4点の変更が有効です。
- 各回の議題に「他の2者へ依頼したい事項」の枠を常設する
- 議事録に「依頼事項・依頼先・回答期限・回答状況」の4列を設ける
- 前回の依頼事項の回答状況の確認を、毎回の冒頭の議題に固定する
- 決算日程に紐づかない会合を、年間日程に少なくとも1回は組み込む
依頼の枠を常設すると、依頼がない回には「今期は依頼事項なし」と記録が残ります。この記録が続く場合、依頼が出ない理由そのものが次の検討対象になります。
3者の監査カバレッジを1枚に重ね、重複と空白を可視化する
基準のずれへの手当ては、重要性の判断基準を統一することではありません。3者の判断基準は職責に由来する違いを残したまま、判断の結果を重ね合わせて差分を見ることが有効です。
年度の監査計画が確定する前に、3者のリスク評価と監査対象領域を1枚の表に重ねる進め方が考えられます。縦軸に事業・機能・子会社などの領域を並べ、横軸に3者を置いて、各領域を誰が当期の対象としているかを埋めます。
3者の監査対象領域を重ねたマトリクスのイメージ
この作業から2種類の情報が得られます。
- 重複している領域 — 被監査部門の負担になっているため、どこを削るか、あるいは監査手続を相互に利用できないかを検討する対象になります
- 空白の領域 — 3者のいずれも当期の対象としていない領域について、誰が見るか、あるいは当期は見ないと決めるかを明示的に判断します
「当期は見ない」と決めること自体が成果です。判断が記録に残れば、翌期の計画策定時に見直しの対象として浮上します。リスク評価に基づく監査対象の絞り込みの手順はリスクベース監査の進め方で詳しく扱っています。
監査計画を1枚に重ねるのと同じ考え方は、指摘事項にも使えます。3者の指摘を1つの一覧に集約すると、同じ根本原因に由来する指摘の重複と、是正が止まっている指摘が見えるようになります。どちらの一覧も、誰が督促するかをあらかじめ決めておくことで初めて機能します。
法定の連携装置を年中行事から通年の対話の起点に変える
制度が用意している装置は、運用を変えるだけで連携の起点になります。求められるのは新しい権限ではなく、既にある権限の使い方を書面処理から対話に移すことです。
報酬等への同意と選解任議案の検討は、監査計画そのものを議論する機会として使えます。同意の手続きの前に、次の点を確認する運用が考えられます。
- なぜこの監査時間・報酬水準になっているのか
- 重点領域が前年度から変わったのはどの事象を受けてか
- 期中の段階で、今期 KAM の候補として何を見ているか
これらを確認すれば、同意の手続きがそのままリスク認識の共有になります。同意を留保する話ではなく、同意の前提として何を聞くかを決める話です。KAM の協議についても、期末の記載文案の確認から前倒しし、監査役等が取締役会で得た情報と突き合わせる余地を作れます。前年度と同じ項目が並ぶかどうかではなく、候補の入れ替えがなぜ起きた (あるいは起きなかった) かを議論できる状態が、協議の実質です。
報告経路と「共有してよい情報の水準」を制度で決める
誘因の非対称への手当ては、個人の姿勢に働きかけても効きません。必要なのは、報告経路と共有の基準を規程として明文化することです。 具体的には次の2点が考えられます。
- 報告経路の明文化 — 内部監査部門から監査役等への直接の報告経路を、内部監査規程に定めます。業務上の指揮命令は執行側に、監査結果の報告は監査役等にも、という二重の報告関係 (デュアル・レポーティング) を明示すれば、報告するかどうかが担当者個人の判断に委ねられなくなります
- 共有基準の明文化 — 確度が固まっていない段階の懸念をどう扱うかを、三者協議の運用ルールとしてあらかじめ取り決めます。共有の目的・取扱範囲・エスカレーション基準を定め、責任の扱いは法務・監査上の職責と整合させます
いずれも、特定の人物の判断力や勇気に依存しない仕組みにするための設計です。担当者が交代しても連携の水準が落ちない状態をつくることが、制度化の目的になります。
三者が同じリスク情報を見られる状態をつくる
ここまでの設計は、人と手続きの側への手当てです。それらを整えたあとに残るのは、3者それぞれが見ている情報そのものが別々になっている点です。 会計監査人は会計データと監査手続の結果を、内部監査は往査で得た記録を、監査役等は取締役会資料と往査報告を見ています。同じ会社を見ながら、主に参照する情報源が異なります。
この条件が残る限り、基準のずれと周期の遅れを運用努力だけで埋めるのは容易ではありません。共通の情報基盤は、運用上の連携を補完する選択肢の一つになります。連携の前提として次の状態を作れるかが、実効性の分かれ目になります。
- 3者が同じリスク情報を、同じタイミングで参照できる
- 兆候の段階の情報が、監査サイクルを待たずに可視化される
NaLaLys では、社内のメール・チャットをAIで解析し、不正・違反の兆候を抽出して専用Web画面で確認できる機能を提供しています。3者が別々に集めた情報を持ち寄るのではなく、同じ土台の上で議論を始められる状態が、連携の設計を支えます。詳細はNaLaLys の製品ページで紹介しています。
三様監査に関するよくある質問
Q. 内部監査部門が監査役等に直接報告することは、社長の指揮命令権と矛盾しませんか。
業務上の指揮命令の経路と、監査の結果を報告する経路を分けて設計する考え方で整理できます。人事・予算・業務遂行に関する指揮命令は執行側に残したまま、監査結果については監査役等にも報告する、二重の報告関係を規程で定める形です。
Q. 三者の協議の内容は、どこまで記録に残す必要がありますか。
会社側に三者協議の議事録を作成する一般的な法定義務があるわけではありませんが、依頼事項と回答状況が追える程度の粒度で残す実益はあります。確度の固まっていない懸念をどこまで記載するかは、共有を妨げない範囲で事前に取り決めておくことが望まれます。
Q. 内部監査部門の監査調書を会計監査人に見せてよいのでしょうか。
一律に可否が決まるものではなく、共有の範囲を事前に取り決めておくことが必要です。内部通報に由来する情報や個人が特定され得る記録が含まれる場合、通報者の秘匿や個人情報の取り扱いとの関係で慎重な判断が求められます。
Q. 監査役会設置会社と監査等委員会設置会社で、三様監査の連携の進め方は変わりますか。
連携の設計思想そのものは共通しています。差が出るのは、監査を担う機関の権限と、内部監査部門との指揮命令・報告の設計です。いずれの機関設計でも、依頼と回答が往復する場を持つという原則は変わりません。
Q. 子会社を含めたグループ全体では、三様監査の連携をどう設計すればよいですか。
親会社の三者と、子会社の監査役・監査機能をどうつなぐかが論点になります。子会社の監査役等との情報交換の場を定例化し、親会社の内部監査が実施した子会社往査の結果を共有する経路を持つ形が基本になります。
まとめ
三様監査の実効性は、3者がそろっていることではなく、形骸化の構造にどこまで手当てできているかで決まります。本記事で整理した対応関係は次のとおりです。
- 場 の問題には、議題の所有者を監査役等に移し、議事録に依頼と回答の欄を設ける設計
- 基準 の問題には、3者の監査カバレッジを1枚に重ね、重複と空白を可視化する設計
- 周期 の問題には、決算日程に紐づかない会合と、指摘事項の横断管理の設計
- 誘因 の問題には、報告経路の明文化と、確定前の情報を共有しやすくする取り決め
制度は既に連携の装置を用意しています。会計監査人に対する法定の権限も、KAM をめぐる協議も、内部監査部門からの報告経路も、いずれも運用次第で通年の対話の起点になります。まず手元の議事録と監査計画を突き合わせるところから、自組織の連携の水準を確かめる形が現実的です。